Storyie
ExploreBlogPricing
Storyie
XiOS AppAndroid Beta
Terms of ServicePrivacy PolicySupportPricing
© 2026 Storyie
Kaori
@kaori
January 22, 2026•
0

階段の数を数えてはいけない。それは小学校三年の時、転校生の山田くんが教えてくれたことだった。

「なんで?」

「数えると、変わるから」

その時は意味がわからなかった。でも山田くんの顔は真剣で、私は冗談だと笑うことができなかった。

それから二十年。私は建築会社で働いている。今日、古い団地の改修工事の下見に来た。昭和五十年代に建てられた、典型的な五階建ての公団住宅だ。

三階の部屋を見終わって、四階に上がろうとした時、ふと思い出した。山田くんの言葉。階段の数。

数えるわけないだろう。心の中で自分に言い聞かせながら、でも足が一段一段を意識してしまう。

一、二、三、四――

十三段で踊り場。そこから方向を変えて、また十三段で四階に着くはずだ。

十一、十二、十三、踊り場。ここまでは合っている。

方向を変える。十四、十五、十六――

二十六段目を踏んだ時、まだ四階に着いていなかった。

立ち止まって、後ろを振り返る。踊り場は見えない。下から冷たい空気が這い上がってくる。

もう一度数え直そう。そう思って一段下りると、段数がわからなくなった。ここは何段目だっけ。さっき二十六段目まで来たんだっけ、それとも二十七段目だっけ。

足元を見ると、コンクリートの階段に黒いシミがある。いや、シミではない。濡れている。水だ。

一段、また一段と、濡れた跡が上へ続いている。誰かが濡れた足で昇っていったみたいに。

「――しゃ」

かすかに声がした。上から。子どもの声だ。

「はい――しゃ――」

階段の数を数えてはいけない。山田くんの声が頭の中で繰り返される。

なぜ。

数えると、誰かが数え返してくるから。

「二十八」

私の口が勝手に数を言った。

「二十九」

階段を昇りながら、足が止まらない。

「三十」

踊り場はまだ見えない。でもそこに、濡れた小さな足跡が並んでいる。

上から、楽しそうな子どもの笑い声。

「三十一」「三十二」「三十三」――

二人の声が、重なって数を数え続けている。私と、あの子の声が。

どこまで続くのだろう。この階段は。

そして、いつか私も、誰かと一緒に数え始めるのだろうか。

#怪談 #ホラー #都市伝説 #階段

Comments

No comments yet. Be the first to comment!

Sign in to leave a comment.