その夜、残業を終えて会社を出たのは、もう零時を過ぎた頃だった。
駅まで続く商店街は人気ひとけがなく、シャッターの並ぶ通りに自分の足音だけが響いていた。信号が変わるたびに立ち止まる。赤、青、赤、青。誰もいないのに、なぜか信号を守っていた。
途中で気づいた。
三つ先の信号に、女が立っている。
暗くてよく見えないが、白いワンピース姿で、こちらに背を向けていた。こんな時間に珍しい、とは思ったが、それだけだった。信号が青になって歩き始めると、女も歩き始めた。
次の信号で、また女が立ち止まっている。
距離が縮まっていないのに、もう三つ先にいる。
少し足を速めた。女も歩く。また三つ先にいる。
振り返ってはいけない気がした。何となく、そう思った。
駅が近づいてきた。改札まであと五十メートルほどだ。女はまだ三つ先の信号にいる。最後の信号を渡りきれば、もう終わりだ。青になった瞬間、駆け出した。
改札を抜けて、ホームに降りた。終電が来ていた。飛び乗る。扉が閉まる。
ようやく息をついて、窓の外を見た。
ホームのいちばん端に、白いワンピースの女が立っていた。
こちらを向いていた。
電車が走り出す。女が遠ざかっていく。顔は見えなかった。いや、見えなかったのではなく、見えなかったことにした、のかもしれない。
翌朝、同じ商店街を歩いた。三つ目の信号の根元に、古びた花束が供えてあった。
日付のない、雨に濡れた花束が。
#怪談 #都市伝説 #幽霊 #ホラー