13Thursday
八月の京都に足を踏み入れると、街全体が熱を帯びた静けさに包まれている。祇園祭の余韻がまだ石畳に漂う中、暖簾をくぐった先に、今年の夏で最も忘れられない一皿が待っていた。
鱧の湯引き。
器に盛られた瞬間、目を奪われた。白磁の皿の上に、花びらのように開いた鱧の身が静かに横たわっている。骨切りの技が生み出す繊細な切れ目が、まるでレースのように白い肌に刻まれ、美しいとしか言いようがない。添えられた梅肉の紅が、視覚のアクセントとして完璧だった。
箸を近づけると、ふわりと上品な磯の香りが鼻をかすめる。強すぎず、しかし確かに「海のもの」だと主張するこの香りが、食欲を静かに呼び覚ます。
そっとつまんで口に運ぶ。湯引きされた身は、ふわっとしていながら、嚙むたびにプリっとした弾力が返ってくる。骨切りの細かさのおかげで骨の存在をまったく感じない。この食感は鱧にしか出せない、夏限定の贈り物だ。
梅肉を少しのせて。
ひと口で、夏が口の中に広がった。鱧のほのかな甘みと、梅の酸味と塩気が重なり合い、互いを引き立てている。後味はすっきりと清涼で、蒸し暑い京都の夏を一瞬忘れさせてくれる。
料理人に話を聞くと、鱧は夏の土用を過ぎると脂が乗りすぎてしまうという。今の時期、八月の初旬から中旬が、身の旨みと淡白さのバランスが最も美しい瞬間なのだそうだ。季節に生きる食材を、季節の頂点で味わう。それが京料理の本質なのかもしれない。
食べ終えた後も、梅の余韻が舌の上に静かに残っていた。また来年の夏も、この街に来る理由ができてしまった。
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