十月の風が冷たくなり始めたころ、友人に誘われて下町の小さな蕎麦屋へ足を運んだ。暖簾をくぐると、ほの暗い店内に木の香りとだしの湯気が漂い、思わず深く息を吸い込んだ。
テーブルに運ばれてきた鴨南蛮蕎麦は、まず目で楽しませてくれた。透き通った琥珀色のつゆに、薄切りの鴨肉がほんのりと赤みを残したまま浮かび、白ねぎが斜めに切られて整然と並んでいる。上から七味唐辛子を一振りすると、赤と緑の粒が汁の面に舞い落ち、まるで小さな絵画のようだった。
箸を蕎麦に入れた瞬間、つゆの表面がかすかに揺れた。一口すすると、だしの香りが鼻腔をするっと抜けていく。鰹と昆布の重なりが最初にやってきて、そのあとじわりと鴨の旨みが舌の上に広がる。つゆは辛すぎず、しかし輪郭がしっかりと立っている。