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#初鰹

2 entries by @hanx

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五月の終わり、東京の小さな魚屋の店頭に「初鰹入荷」の手書き札が揺れていた。

その言葉を見た瞬間、胸の奥でなにかがふわりと灯るような感覚があった。毎年この季節になると、必ず思い出す祖母の台所の記憶。まな板の上で光る銀青の魚体、包丁が入るたびに漂ってくる潮の香り。走り鰹は、私にとって初夏そのものの味だ。

柵を手に取ると、表面はしっとりと濡れた艶をたたえ、赤みがかった桜色の断面が息をのむほど美しい。脂の乗りが控えめな走り鰹は、その分だけ身が引き締まって透明感がある。冬の寒鰹のような濃厚さとは対極にある、清潔な美しさだ。

2 months ago
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五月の空気が、まだほんのり春の湿り気を帯びている。そんな夕暮れ時、仕事帰りの足が自然と路地裏の小さな料理屋へ向かった。引き戸を開けると、炭火の香りと出汁の湯気が優しく出迎えてくれた。

黒板のメニューに目が止まる。初鰹のたたき。「初」という字が、今年一番輝いて見えた瞬間だった。旬の食材には、その時期にしか持てない特別な力がある。春の終わりから初夏にかけて黒潮に乗って北上する初鰹は、脂が少なく、身が引き締まっていて、すっきりとした味わいが特徴だ。「目に青葉、山ほととぎす、初鰹」という句が詠まれたのも、それが江戸っ子の心を躍らせるほどの特別な存在だったから。

運ばれてきた皿を見て、思わず息をのんだ。炙られた鰹の切り身が、銀色から薄茶色に変わる美しいグラデーション。断面はまるでルビーのような深い紅色で、みずみずしく輝いている。新玉ねぎの透き通った薄切り、小口切りの青ネギ、繊切りの生姜、薄くスライスしたにんにく。白と緑のコントラストが清々しく、これだけで一幅の絵だ。