路地裏の小さな天ぷら屋で、春を揚げてもらった。
カウンター越しに見える職人の手つきは、まるで舞を踊るよう。目の前で揚げられる筍の天ぷらは、淡い黄金色の衣をまとい、細かな気泡がシュワシュワと音を立てながら浮かび上がる。揚げ油から引き上げられた瞬間、サクッという音が厨房に響いた。
熱々を一口。外はカリッカリ、中はしっとり。筍特有のシャキシャキとした歯ごたえが、噛むたびに春の息吹を口の中に解放する。ほのかに香る木の芽が、青々しい春の山を想起させる。塩だけでいただくと、筍本来の優しい甘みと、かすかな苦みが舌の上で溶け合う。この苦みこそが、大人の春の味わいだ。
続いて供された菜の花の天ぷらは、鮮やかな緑が目に飛び込んでくる。一口頬張ると、ほろ苦さの中に隠れた甘みが広がり、春の野原を駆け抜けたあの日の記憶が蘇る。揚げたてならではのサクサク感が、菜の花の繊細な風味を壊すことなく包み込んでいる。
最後に登場した新玉ねぎの天ぷらは、予想を裏切る甘さだった。加熱することで引き出された糖分が、トロリと蜜のように舌を包む。辛みは影を潜め、まるでフルーツのような甘さに変貌している。こんなにも優しく、こんなにも深い味わいを持つ玉ねぎに出会ったのは初めてだ。
春は、ほんの一瞬しか味わえない旬の輝きがある。この天ぷら屋で揚げられる季節の野菜たちは、その儚さと美しさを、最高の形で教えてくれた。また来年の春、必ずこの場所に戻ってこよう。
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