You've hit your session limit · resets 10:50pm (Asia/Tokyo)
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You've hit your session limit · resets 10:50pm (Asia/Tokyo)
ブし続けていて、その両側に背の低い古い家が並んでいる。川の曲がり方の癖をそのまま地面が記憶しているようで、妙におかしい気持ちになる。歩いていると、こういう道に個人的な名前をつけたくなる気持ちが少し分かった気がした。地図に載っている名前とはまた別の、もっと手触りのある名前のことだ。風がほとんどなく、アスファルトが熱を蓄えていた。路地の奥で猫が一匹、影の中で寝ていた。
途中で、青いペンキが半分以上剥げた金属の引き戸を見かけた。横に「○○製作所」と書かれた小さな板が一枚だけ打ってあって、○○の部分がほとんど読めない。ペンキの下地のオレンジ色が透けていて、それがなぜかとても落ち着いた色だった。劣化した看板が落ち着くというのも変な話だが、そういうことが町歩きにはある。何を作っていた場所なのかは分からないまま通り過ぎた。そこで何かが作られていたことだけは覚えておこうと思った。鉛筆でノートにメモした。
蒲田に近づいてきたところで昼にした。駅の東口から路地を二本入ったあたりに、ガラス扉に手書きの値段表が貼ってある小さな中華屋があった。引き戸を開けるとカウンターが五席で、先客がひとり、丼に顔を近づけて黙々と食べていた。壁には小さなテレビがあって、音を消したまま競馬中継を流していた。塩ラーメンを頼むと、スープが透き通っていて、表面に油が小さな輪をいくつも作っていた。一口飲んで、深くはないが飽きない塩気だと思った。麺が細くて、噛むたびにほんの少し縮む感じがした。チャーシューが薄くて、箸でつつくとほろりと崩れた。そういう麺は久しぶりだった。
会計のとき、750円だと分かっていたのに財布から550円を出してしまい、店のおばさんに「あと200円ね」と静かに言われた。おばさんは笑わなかった。私も笑わなかった。200円を渡しながら、今日の失敗はすでに二回になったと数えた。4時間で二回なら悪いペースではない、と自分を慰めた。外に出ると風もなく、また暑かった。
帰りの池上線の中で、今日の一行メモを書いた。「呑川、道が川の形を覚えている」「青ペンキの下のオレンジ」「スープの油の輪」「550円と750円の差額」。旗の台を通過するとき、また来てもいいかなと思った。電車の窓に映る自分の顔がなんとなく満足そうに見えた。たぶん次は北口から出る。たぶん。
#街歩き #散歩日記 #暗渠 #呑川
荻窪から高円寺まで一本道で行けると思っていた。スマホで経路を確認するまでもない、と慢心して、とりあえず駅を出た。出た瞬間に方向感覚がなくなった。スマホの地図を開いて、青い矢印が自分の向きと合わないまま一分ほどくるくる回ってみた。ようやく、南口から出るべきところを北口から出ていたと気づいた。地図を逆さに持っていたわけではないが、効果としてはほぼ同じだった。来た道を戻って南口へ出直す。最初の十分がそれで終わった。
七月の善福寺川沿いを歩く。朝九時をすぎてもう蒸していて、コンクリートの護岸がじわりと熱を発している。日陰を選びながら進むと、自然とびくびくした歩き方になる。川は細くて、水は澄んでいるのか濁っているのかよく分からない速さで流れていた。河川というより、水が細長いスペースをおとなしく占拠しているという印象だ。カルガモが一羽、特に急ぐ様子もなく対岸へ移動した。それを見送って、また歩く。川沿いの道は自転車が多くて、たまにベルを鳴らされながら端に寄る。こういう歩き方が正直、わりと好きだ。
しばらく進んだところで、古いクリーニング店の看板が目に入った。「クリーニング」という白抜きの文字だけはまだはっきり読めるのに、屋号を書いてあったはずの部分がほとんど白く褪せてしまっている。四角い枠の錆だけが残っていて、かつてそこに何か誇らしげな名前があったことだけが分かる。いまは名無しのクリーニング店として、それなりに堂々と立っている。自分の名前を風雨に返しながら、それでも業種だけは守り続けているという感じが、妙に好きだった。鉛筆でノートにその輪郭を走り書きしてみたが、うまく写せなかった。
高円寺の商店街に辿り着いたのは昼をだいぶ過ぎた頃だった。目当てにしていた喫茶店は定休日で、シャッターに「毎週火曜定休」と貼り紙があった。今日は火曜日だった。隣に似たような構えの店があったのでそちらに入った。ブレンドコーヒーを頼むと、古びた鉄製のポットで出てきた。最初の一口は少し焦げたような苦さで、次の一口からはゆっくり甘さが出てきた。カウンターの奥でマスターが黙ってグラスを磨いていた。テレビの野球中継をちらりと確認して、また磨く。客は自分ともう一人、窓際で新聞を読んでいるおじさんだけで、有線の歌謡曲が小さく流れていた。居心地がいいというより、邪魔されない感じだった。コーヒーを飲み切るまで、誰も何も言わなかった。
商店街をぬけて阿佐ヶ谷の方へ少し歩き、また引き返した。行きと帰りで商店街の顔が変わるな、とぼんやり思った。入り口から見ると奥へ続く暗い通路に見えるのに、出口側から振り返ると光が入って開けている。同じ通路なのに、向きが変わるだけで全然違って見える。たぶん、どちらから見るかで期待の方向が変わるせいだと思う。商店街というのは、方向性のある場所なのかもしれない。
帰りの中央線の中でメモを開いたら、「クリーニング屋号消滅」「カルガモ一羽」「定休日の貼り紙の字がきれいだった」とだけ書いてあった。今日はこれだけ、たぶん。
#街歩き #散歩日記 #高円寺 #喫茶店