今日のターゲットは、阿佐ヶ谷から桃園川の暗渠を辿って高円寺まで歩くことだった。地図上の距離は六キロ弱で、「軽い午前中の散歩」のつもりで阿佐ヶ谷駅に降り立った。改札を出た瞬間、なぜか北口に立っていた。南...
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今日のターゲットは、阿佐ヶ谷から桃園川の暗渠を辿って高円寺まで歩くことだった。地図上の距離は六キロ弱で、「軽い午前中の散歩」のつもりで阿佐ヶ谷駅に降り立った。改札を出た瞬間、なぜか北口に立っていた。南...
西荻窪を起点にしたのは、荻窪との境がよくわからないからだ。毎回「あれ、もう荻窪か」とスマホを確認するはめになる。実際、地名の境界線がどこにあるのか、長く住んでいる人でも説明できないんじゃないかと思う。...
水曜日なのに有給を取った。理由は特にない。強いて言えば、先週からずっと気になっていた暗渠を歩きたかった、それだけだ。蛇崩川の跡を池尻大橋から三軒茶屋まで歩く計画を立てた。「計画を立てた」というほどのも...
今日は五反田駅の南口を出て歩き始めた。目的地は特にないといえばないのだが、品川用水の暗渠跡を荏原町から戸越公園のあたりまでたどってみよう、というのを一応の目標にしていた。九月の日曜日で、まだ蒸し暑かっ...
先週の土曜日、明大前を出発したのは午前九時半ごろだった。北沢川の暗渠跡をたどって三軒茶屋まで歩くつもりで、前日に地図も確認しておいた。確認しておいたのに、甲州街道を渡ってすぐ地図を開いたら、スマホの画...
荻窪から高円寺まで一本道で行けると思っていた。スマホで経路を確認するまでもない、と慢心して、とりあえず駅を出た。出た瞬間に方向感覚がなくなった。スマホの地図を開いて、青い矢印が自分の向きと合わないまま一分ほどくるくる回ってみた。ようやく、南口から出るべきところを北口から出ていたと気づいた。地図を逆さに持っていたわけではないが、効果としてはほぼ同じだった。来た道を戻って南口へ出直す。最初の十分がそれで終わった。
七月の善福寺川沿いを歩く。朝九時をすぎてもう蒸していて、コンクリートの護岸がじわりと熱を発している。日陰を選びながら進むと、自然とびくびくした歩き方になる。川は細くて、水は澄んでいるのか濁っているのかよく分からない速さで流れていた。河川というより、水が細長いスペースをおとなしく占拠しているという印象だ。カルガモが一羽、特に急ぐ様子もなく対岸へ移動した。それを見送って、また歩く。川沿いの道は自転車が多くて、たまにベルを鳴らされながら端に寄る。こういう歩き方が正直、わりと好きだ。
しばらく進んだところで、古いクリーニング店の看板が目に入った。「クリーニング」という白抜きの文字だけはまだはっきり読めるのに、屋号を書いてあったはずの部分がほとんど白く褪せてしまっている。四角い枠の錆だけが残っていて、かつてそこに何か誇らしげな名前があったことだけが分かる。いまは名無しのクリーニング店として、それなりに堂々と立っている。自分の名前を風雨に返しながら、それでも業種だけは守り続けているという感じが、妙に好きだった。鉛筆でノートにその輪郭を走り書きしてみたが、うまく写せなかった。
高円寺の商店街に辿り着いたのは昼をだいぶ過ぎた頃だった。目当てにしていた喫茶店は定休日で、シャッターに「毎週火曜定休」と貼り紙があった。今日は火曜日だった。隣に似たような構えの店があったのでそちらに入った。ブレンドコーヒーを頼むと、古びた鉄製のポットで出てきた。最初の一口は少し焦げたような苦さで、次の一口からはゆっくり甘さが出てきた。カウンターの奥でマスターが黙ってグラスを磨いていた。テレビの野球中継をちらりと確認して、また磨く。客は自分ともう一人、窓際で新聞を読んでいるおじさんだけで、有線の歌謡曲が小さく流れていた。居心地がいいというより、邪魔されない感じだった。コーヒーを飲み切るまで、誰も何も言わなかった。
商店街をぬけて阿佐ヶ谷の方へ少し歩き、また引き返した。行きと帰りで商店街の顔が変わるな、とぼんやり思った。入り口から見ると奥へ続く暗い通路に見えるのに、出口側から振り返ると光が入って開けている。同じ通路なのに、向きが変わるだけで全然違って見える。たぶん、どちらから見るかで期待の方向が変わるせいだと思う。商店街というのは、方向性のある場所なのかもしれない。
帰りの中央線の中でメモを開いたら、「クリーニング屋号消滅」「カルガモ一羽」「定休日の貼り紙の字がきれいだった」とだけ書いてあった。今日はこれだけ、たぶん。
#街歩き #散歩日記 #高円寺 #喫茶店