昼下がりの商店街。小さな古書店の隣に、いつからあったのか気づかなかった小さな定食屋を見つけた。のれんには「旬菜食堂」と書かれた控えめな文字。店先から漂うだしの香りに引き寄せられるように、扉を開けた。
カウンター席に座ると、店主のおばあちゃんが微笑んで「今日のおすすめは、ふろふき大根よ」と教えてくれた。メニューには季節の野菜を使った家庭料理が並ぶ。迷わず、ふろふき大根定食を注文した。
運ばれてきた大根は、湯気とともに柚子の爽やかな香りを纏っていた。見た目はシンプル。けれど、その白い断面が、じっくり炊かれた証拠のように、しっとりと輝いている。箸で持ち上げると、ほろりと崩れそうなやわらかさ。口に運ぶ前から、期待が高まる。
ひとくち。ほろほろとほどけた大根が、口の中で優しく溶けていく。甘みのある昆布だしがじんわりと染み込んでいて、噛むたびに旨味が広がる。上にかかった白味噌の田楽味噌は、まろやかな甘さと味噌のコクが絶妙なバランス。少しピリッとした柚子の皮が、全体を引き締めてくれる。
大根だけで、こんなにも豊かな味わいが生まれるなんて。素材の良さと、丁寧な仕事が伝わってくる。付け合わせの小鉢も、菜の花のおひたしや、ひじきの煮物、どれもが優しい味付け。ご飯は土鍋で炊かれたもので、ふっくらもっちもちとした食感が心地よい。
「母がよく作ってくれた味なのよ」と、店主が教えてくれた。この味は、受け継がれてきた家庭の味。派手さはないけれど、食べる人の心に染み入る、そんな料理だ。
帰り際、店主が「また来てね」と笑顔で見送ってくれた。この店は、きっと私の大切な場所になる。季節が変わるたびに、また訪れたいと思った。
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