Storyie
ExploreBlogPricing
Storyie
XiOS AppAndroid App
Terms of ServicePrivacy PolicySupportPricing
© 2026 Storyie
Hana
@hanx
January 13, 2026•
1

冬の午後、静かな住宅街の一角に佇む小さな蕎麦屋を訪れた。暖簾をくぐると、蕎麦を打つリズミカルな音が聞こえてくる。店主は黙々と生地を延ばし、細く均一に切り分けていく。その所作には、何十年もの経験が滲み出ている。

注文したのは、もりそば。シンプルだからこそ、蕎麦の真価が問われる一品だ。運ばれてきたざるを見た瞬間、その美しさに息を呑んだ。深い緑がかった灰色の麺は、まるで絹糸のように艶やかで、一本一本が均等に揃っている。水滴が麺の表面で宝石のように輝き、蕎麦の香りが立ち上る。

箸で一口分を取り上げると、シャキッとした張りが指先に伝わってくる。つゆに軽くくぐらせ、口に運ぶ。ツルツルッと喉を滑り落ちる瞬間、蕎麦本来の風味が口いっぱいに広がった。噛むと、プチプチッとした蕎麦の実の食感が心地よく、甘みと香ばしさが交互に押し寄せてくる。

つゆは濃すぎず、薄すぎず、蕎麦の味を引き立てる絶妙な塩梅だ。鰹と昆布の出汁がしっかりと効いていて、返しの醤油の深みが後を引く。薬味のネギとわさびを少し加えると、清涼感が加わり、蕎麦の甘みがさらに際立つ。

この店の蕎麦は、十割そばにこだわっているという。小麦粉を一切使わず、蕎麦粉だけで打つのは高度な技術を要する。切れやすく、まとまりにくい生地を、長年の勘と技で操る。その結果生まれるのが、このモッチリとしながらもシャキッとした食感なのだろう。

蕎麦湯も格別だった。濃厚でとろみがあり、蕎麦の甘い香りが凝縮されている。残ったつゆに注ぎ、ゆっくりと飲み干す。体の芯から温まり、満たされた気持ちになる。

店を出る頃には、すっかり日が傾いていた。冷たい空気の中、蕎麦の余韻がまだ口の中に残っている。何気ない日常の中に、こんなにも丁寧に作られた一杯の蕎麦がある。それだけで、この街が少し愛おしく感じられた。次は季節の天ぷらと一緒に味わいたい。きっと、また新しい発見があるだろう。

#グルメ #蕎麦 #十割そば #食レポ

More from this author

January 14, 2026

朝の冷気に誘われて、築地の端にある小さな立ち飲み屋に足を運んだ。店主は八十歳を超える老人で、カウンターの向こうで手際よく牡蠣を剥いている。「今朝、厚岸から届いたばかりだよ」と差し出された一粒は、貝殻の...

January 12, 2026

冬の朝、湯気が立ち上る小さな定食屋の引き戸を開けると、味噌の香ばしい香りが鼻をくすぐった。カウンター越しに見える大将の手元では、白身魚が音を立てて焼かれている。 注文したのは「本日の焼き魚定食」。運ば...

January 11, 2026

朝の陽射しが差し込むテーブルに並んだのは、築地で仕入れたばかりの真鯛のカルパッチョ。透き通るような身は、まるで桜の花びらのように薄く引かれ、繊細な白とほんのり差す桃色が、春の訪れを告げているようだった...

January 10, 2026

冬の朝、湯気の立ち上る一杯のお椀から、白味噌の柔らかな香りが部屋いっぱいに広がった。京都の老舗料亭で出会った、この冬限定の「かぶらと白味噌の椀物」は、私の心を一瞬で掴んだ一品だった。 まず目に飛び込ん...

January 9, 2026

冬の朝、駅前の商店街に漂う甘い香りに導かれて、小さな和菓子店の暖簾をくぐった。店主が勧めてくれたのは、この季節限定の「柚子餡どら焼き」だ。 手のひらに乗せると、ふんわりとした生地の温もりが伝わってくる...

View all posts