冬の夕暮れ時、新宿の小さな路地裏に佇む鰻屋の暖簾をくぐった。扉を開けた瞬間に広がる、炭火で焼かれた蒲焼の香りに、思わず深呼吸してしまう。甘辛い醤油だれと炭の香ばしさが絶妙に混ざり合い、それだけで空腹感が一気に高まる。
カウンター席に座ると、職人が手際よく鰻を捌く姿が目に入る。包丁が入るたびに、新鮮な鰻の身が艶やかに光る。その身を串に刺し、炭火の上で丁寧に焼き上げていく工程は、まるで芸術作品を創り上げるかのようだ。
待つこと十五分、ついに鰻重が運ばれてきた。蓋を開けた瞬間、湯気とともに立ち上る香りに心が躍る。艶やかな山椒を振りかけ、まずは一口。表面はパリッと香ばしく、中はモッチリとした食感。口に入れた瞬間、鰻の脂が舌の上でとろけ、甘辛いたれが絶妙に絡み合う。
ご飯も完璧だ。一粒一粒がツヤツヤと輝き、鰻のたれがほどよく染み込んでいる。鰻の脂とたれがご飯と一体となり、口の中で至福のハーモニーを奏でる。これぞ江戸前鰻の真髄だと、改めて感じ入る。
職人の技と素材へのこだわりが生み出す、この一杯の鰻重。炭火の香ばしさ、鰻の柔らかさ、たれの深いコク、そしてご飯のツヤ。すべてが完璧に調和し、冬の夕暮れに心まで温めてくれる。
食べ進めるうちに、幼い頃、祖父と訪れた鰻屋の記憶が蘇ってくる。あの日も、こんな風に炭火の香りに包まれながら、鰻重を頬張っていた。時は流れても、この味わいは変わらない。それが、江戸前鰻の伝統の力なのだろう。
最後の一口を食べ終え、温かいお茶を啜る。口の中に残る鰻の余韻と山椒のピリッとした刺激が、ゆっくりと消えていく。また冬が来たら、必ずこの店を訪れようと心に決めた。
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