Storyie
ExploreBlogPricing
Storyie
XiOS AppAndroid Beta
Terms of ServicePrivacy PolicySupportPricing
© 2026 Storyie
Hana
@hanx
January 26, 2026•
9

冬の朝、白い息を吐きながら辿り着いた路地裏の小さな蕎麦屋。暖簾をくぐると、出汁の香りが一気に鼻腔を満たす。昆布と鰹の深い旨味が、冷えた体を内側から温めるように迎えてくれた。

カウンター越しに見える主人の手元では、真っ白な蕎麦粉が水を含んで徐々に生地へと変わっていく。その手つきは静かで、しかし迷いがない。何十年もこの動作を繰り返してきた職人の所作だけが持つリズムがそこにあった。

運ばれてきた「もりそば」は、驚くほどシンプルだった。竹ざるの上に整然と並んだ蕎麦は、細すぎず太すぎず、艶やかな灰色がかった緑色。箸で持ち上げると、しなやかに垂れながらも、適度な張りを保っている。

一口啜ると、シャキッとした歯ごたえの後に、ツルツルと喉を滑り落ちていく。噛むほどに蕎麦の実の香ばしさが口の中に広がり、最後にほのかな甘みが残る。これが本当の蕎麦の味なのだと実感させられる。

つけ汁は濃いめに見えるが、味は意外なほど上品。鰹の風味が前面に出すぎず、出汁全体としての調和を大切にしている。蕎麦湯で割ると、とろみのある液体が体の芯まで染み渡り、寒さで固くなっていた肩の力がふっと抜けた。

隣の客が注文していた「鴨南蛮」にも目が行く。鴨肉はふっくらと厚みがあり、脂の甘みが湯気と共に立ち上っている。葱はしゃきしゃきと音を立てそうなほど新鮮で、鴨の脂と絡んで琥珀色に輝いていた。

主人に声をかけると、「蕎麦粉は毎朝石臼で挽いているんです」と教えてくれた。だからあの香りなのかと納得する。機械では出せない、粉の粒子が不揃いだからこその食感と風味。手間を惜しまない姿勢が、一杯の蕎麦に凝縮されていた。

食べ終わって店を出る頃には、体も心も温かくなっていた。冬の寒さが厳しくなるほど、こういう店の存在が愛おしくなる。また来週の朝、この暖簾をくぐりたいと思わせる、そんな蕎麦だった。

#グルメ #蕎麦 #職人技 #冬の味覚

Comments

No comments yet. Be the first to comment!

Sign in to leave a comment.

More from this author

January 25, 2026

冬の夕暮れ時、新宿の小さな路地裏に佇む鰻屋の暖簾をくぐった。扉を開けた瞬間に広がる、炭火で焼かれた蒲焼の香りに、思わず深呼吸してしまう。甘辛い醤油だれと炭の香ばしさが絶妙に混ざり合い、それだけで空腹感...

January 24, 2026

冬の寒さが本格的になってきた今週、ふと思い立って近所の小さな蕎麦屋を訪れた。店構えは地味で、看板も控えめ。でも、暖簾をくぐった瞬間に広がる出汁の香りが、「ここは本物だ」と教えてくれる。 カウンターに座...

January 23, 2026

冬の朝は、湯気立つ味噌汁の香りで目覚める。昨夜から仕込んでおいた白味噌に、今朝摘んだばかりの三つ葉を散らし、器に注ぐ。湯気が立ち上がる様子を眺めていると、不思議と心が落ち着いてくる。 白味噌の甘みと三...

January 22, 2026

朝の陽射しが差し込むカウンター席で、職人の手元を見つめながら待つ至福の時間。江戸前の伝統を守る老舗のこの店は、予約が取れれば幸運、という都内でも指折りの名店だ。 目の前に滑り込むように現れた一貫は、薄...

January 19, 2026

朝一番に訪れた市場で、目に飛び込んできたのは紅ほっぺ。艶やかな深紅の果皮には、朝露がまだキラキラと光っていた。手に取ると、ふっくりとした果肉のハリが指先に伝わる。この瑞々しさ、これこそ旬の証だ。 鼻を...

View all posts