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朝の光が斜めに差し込む中、小さなギャラリーの白い壁を眺めていた。そこに掛けられた一枚の油彩画は、遠目には単なる青のグラデーションに見える。でも近づくと、無数の細かな筆跡が層を成していて、まるで海の深さそのものが物質化したようだった。キャンバスの表面に鼻を近づけると、かすかに油絵具の匂いが残っている。
最初、私はこの作品を「抽象的すぎる」と判断しかけた。説明パネルも最小限で、作家の意図を汲み取る手がかりが少ない。でもそれは私の焦りだったのかもしれない。しばらく立ち止まって、ただ見つめることにした。すると、青の中に僅かな緑や紫の粒子が浮かび上がってきて、静止しているはずの画面が呼吸しているように感じられた。
隣にいた年配の女性が小さく呟いた。「これ、夜明けの海かしら」彼女の声は独り言のようだったけれど、私にも聞こえた。なるほど、と思った。夜明けと捉えれば、この青は暗闇から光へ移行する瞬間の色だ。見る人によって時間帯が変わる——それこそが、この作品の構造なのかもしれない。