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今日は五反田駅の南口を出て歩き始めた。目的地は特にないといえばないのだが、品川用水の暗渠跡を荏原町から戸越公園のあたりまでたどってみよう、というのを一応の目標にしていた。九月の日曜日で、まだ蒸し暑かった。日陰を選んで歩くつもりだったが、暗渠というのはたいてい日当たりのいい方向に伸びているらしく、結果的にずっと直射日光の中を歩くことになった。持ち歩いているノートが少し汗でしなびた。いつものことだ。
荏原町の商店街を抜けようとしたあたりで、どこかで角を曲がり損ねたらしかった。気づいたら細い路地の奥に迷い込んでいて、右も左もよく似た外壁の住宅だった。少し戻って進んでみたら、見覚えのある角に出た。商店街の入り口近くにある、手書きの値段がプラスチックシートの下でいくつも重なっている肉屋だ。「あ、さっきもここにいた」と気づいたとき、すでに二十分は余計に歩いていたと思う。スマートフォンを出すのは負けのような気がして、しばらく勘に頼り続けたのが問題だった。結局、目的の暗渠跡からひと筋ずれたあたりを延々と歩いていたらしい。らしい、というのは最後まではっきりしなかったからで、暗渠はなにしろ答え合わせをしにくい。
迷っている途中で、シャッターが半分だけ降りた小さな町工場の前を通った。シャッターに刷り込まれた屋号の塗料が白く退色していて、よく見ないと何と書いてあるかわからなかった。読もうとして少し立ち止まったが、結局読めなかった。廃業しているのか、休業しているのか、それとも今日だけ閉めているのかも、外からはわからなかった。日曜日の町工場の前というのは、判断材料が少ない。
品川用水の暗渠跡は、意識しないと見逃す。住宅街の中に、車が通れないくせにそこそこ幅のある細道がまっすぐ続いていて、見た目は普通の生活路地なのだが、不自然に曲がらないし、建物の配置にぴったりとはまっている。しばらく歩いていると道の中央が微妙に盛り上がっていることに気づいた。蓋をされた水路がその下にある。その盛り上がりに沿って歩きながら、この用水がまだ開渠だったころの、水の音や夏の匂いのようなものを想像しようとしたが、うまくできなかった。地面の下には何の説明もない。知らなければただの生活道路だ。それが暗渠の正体だと思う。
昼は武蔵小山の駅前から一本入った路地の定食屋にした。引き戸を開けると、ほどよく暗くて涼しかった。白いプラスチックの日替わりボードにサバの味噌煮と書いてあったので、それにした。骨が多くて、一口ごとに丁寧に箸で取り除きながら食べた。ご飯のおかわりをしようかどうか迷っていたら、隣のカウンター席に座っていた常連らしき男性が「おかわりは黙って置いてくれるから、待ってればいい」と横から教えてくれた。実際そうだった。味噌汁はワカメとジャガイモで、量がしっかりあって、冷房で冷えた体に染みた。
戸越銀座を少し歩いた。商店街というのは入り口と出口で顔が違う。入り口側は人が滞留してにぎやかなのに、出口側は気づいたらもう普通の住宅街になっていて、人がそのままさっと散っていく。終わり方が唐突で潔い。商店街の「終わり」には看板も柱も特になくて、終わったことにあとから気づくことが多い。始まりより終わりの方が静かだ。
帰りは東急池上線に乗った。立ったまま、ノートに今日の一行を書いた。「暗渠は地図より先に足が教えてくれる」。帰ってから読み返したら少し格好よすぎた気がしたが、消さずにおくことにした。今日の歩行距離は八キロくらい、たぶん。足はそれなりに疲れていた。来週はどこを歩くか、まだ決めていない。
#街歩き #散歩日記 #暗渠 #武蔵小山