駅までの帰り道、いつもより遅くなってしまった。午後十時を回ると、この住宅街は街灯も少なく、人通りもまばらになる。
角を曲がると、見覚えのない路地が目に入った。こんな道、あっただろうか。毎日通っているはずなのに。でも確かに、この路地を抜ければ駅まで五分は短縮できる。
足を踏み入れると、空気が変わった気がした。湿った、古い匂い。路地の奥は街灯が届かず、闇が深い。
歩き始めて三十歩ほどで、後ろから足音が聞こえた。自分と同じリズム。立ち止まると、足音も止まる。振り返ると、誰もいない。
また歩き出す。また足音。今度は近い。
走り出した。
路地を抜けると、見慣れた大通りに出た。振り返る。路地の入り口が、見当たらない。塀が続いているだけ。
翌朝、同じ場所を通った。やはり路地はない。でも夜になると、あの路地がまた現れるような気がしてならない。
そして今夜も、仕事で遅くなった。駅からの帰り道、またあの角を曲がろうとして、足が止まる。
路地が、ある。
入り口で、誰かが立っている。
背中を向けたまま、じっと。
私を、待っているかのように。
#怪談 #ホラー #都市伝説 #恐怖