深夜二時、私は例の電車に乗った。
最終電車が終わった後、この路線にはもう一本だけ列車が走る。時刻表には載っていない。駅員に聞いても知らないと言う。それでも、ホームに立って待っていれば、必ず来る。
車内は薄暗く、蛍光灯が規則正しく明滅している。乗客は三人。向かいの座席に座る女性は、ずっと窓の外を見つめている。彼女の視線の先には何もない。真っ暗な闇だけ。
次の駅でドアが開いた。誰も降りない。誰も乗ってこない。それなのにドアは開き、また閉まる。
四つ目の駅を過ぎた頃、気づいた。向かいの女性が消えていた。いつ降りたのだろう。ドアが開いた音も、立ち上がる気配も感じなかった。
隣の車両に移ろうとした時、背後から声がした。
「次、降りますか」
振り返ると、さっきまでいなかった老人が立っていた。白髪で、深い皺の刻まれた顔。だが目だけが異様に若々しく輝いている。
「いえ、まだです」
老人は微笑んだ。「そうですか。でも、もうすぐ終点ですよ」
車窓の闇が少しずつ薄れていく。駅が近づいているのか。それとも夜明けなのか。
次の駅でドアが開いた。老人が降りる。ホームには誰もいない。照明もない。真っ暗な空間に、老人の姿だけが白く浮かび上がっている。
ドアが閉まりかけた瞬間、老人がこちらを向いた。
「また明日」
列車が動き出す。窓の外を見ると、さっきの駅はもうない。ただの闇が流れていくだけ。
気づけば、車内には私一人だけになっていた。
そして今、私は次の駅を待っている。降りるべきか、このまま乗り続けるべきか。
もう何日、この列車に乗っているのだろう。
窓に映る自分の顔が、少しずつ、あの老人に似てきている気がする。
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