あの夜、取材に行くべきではなかった。 友人の紹介で連絡してきた女性は、「絶対に本物の話です」と繰り返した。場所は閉校になって三年が経つ廃小学校。話の内容は、「音楽室の鏡」についてだった。 彼女の話によ...
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あの夜、取材に行くべきではなかった。 友人の紹介で連絡してきた女性は、「絶対に本物の話です」と繰り返した。場所は閉校になって三年が経つ廃小学校。話の内容は、「音楽室の鏡」についてだった。 彼女の話によ...
夜の十一時を過ぎた頃、私は駅のホームに一人立っていた。 終電まであと十分。蛍光灯がひとつ、ゆっくりと明滅していた。 反対側のホームに、女が立っていた。
夏の終わり、田中みずきは終電に乗り損ねた。 駅から家まで、歩いて二十分。慣れた道だ。でも、こんな時間に歩くのは初めてだった。 街灯の光が、アスファルトに細長い影を作る。みずきの後ろに、みずきの影が伸び...
その夜、残業を終えて会社を出たのは、もう零時を過ぎた頃だった。 駅まで続く商店街は人気ひとけがなく、シャッターの並ぶ通りに自分の足音だけが響いていた。信号が変わるたびに立ち止まる。赤、青、赤、青。誰も...
去年の夏、友人の佐和子から聞いた話だ。 彼女は高校三年の受験生で、その日も図書室で夜遅くまで勉強していた。消灯時間の少し前、トイレに立った。廊下には誰もいない。自分の足音だけが、磨き込まれた床に長く響...
駅の階段は、いつも十三段だった。
毎朝通る駅だから、数えたことなどなかった。けれど、あの日から数えるようになった。
火曜日の朝、いつもより早く家を出た。改札を抜けて、ホームへ続く階段を降りる。足が止まった。
十四段ある。
数え間違いだと思って、もう一度数えた。やはり十四段だった。誰かにぶつかりそうになって、慌てて降りた。
その日の帰り、同じ階段を上がった。数えた。十三段。
おかしい。朝は確かに十四段だった。
翌朝、また数えた。十三段。ほっとした。数え間違いだったのだと、自分に言い聞かせた。
でも、木曜日の朝。また十四段になっていた。
一段多い日は、必ず何かが起きる――そう気づいたのは、金曜日の夜だった。
十四段目を踏んだ日の夕方、友人が事故に遭った。軽傷だったが、電話口で彼女は震えていた。「誰かに押された気がする」と言った。でも、周りには誰もいなかったという。
土曜日の朝、階段は十三段だった。何も起きなかった。
日曜日。十四段。母から電話があった。祖父が倒れたという。
月曜日。十三段。平穏な一日。
火曜日。十四段。
職場で同僚が倒れた。過労だと診断された。でも彼女は、休憩室で「誰かが見ている」と呟いていた。
パターンに気づいた。十四段目を踏んだ日、誰かに何かが起きる。
水曜日の朝、階段の前で立ち止まった。十四段ある。
引き返そうとした。でも、遅刻してしまう。ためらった。
仕方なく階段を降り始めた。一段、二段、三段……。
十三段目を踏んだ。次が最後だ。
足を止めた。十四段目を、じっと見つめた。
他の段と変わらない。古びたコンクリート。少し欠けた角。
でも、何かが違う。空気が冷たい。
足を下ろすのを躊躇っていると、後ろから誰かが来る気配がした。避けなければ。意を決して、十四段目を踏んだ。
ホームに着いた。何も起きなかった。
ほっとして電車を待った。発車ベルが鳴った。
ふと、スマホに通知が来た。母からのメッセージ。
「あなた、今日は休みだったわよね?」
え?
いや、今日は水曜日で、仕事が――
カレンダーを確認した。
今日は日曜日だった。
じゃあ、私は今、どこに向かっているんだろう。
ドアが閉まる。電車が動き出した。
窓の外、ホームに立つ自分が見えた。こちらを見ている。
その私の足元に、十四段目の階段が、ぽっかりと口を開けていた。
#怪談 #ホラー #都市伝説 #階段