終電が出た後の駅は、いつもと違う顔を見せる。
蛍光灯の半分が消え、エスカレーターが止まり、清掃員の足音だけが響く。私はそんな時間帯に駅で働いている。
ある夜、最終点検で地下二階のホームを歩いていると、ベンチに女性が座っていた。
「すみません、終電は出ましたよ」
声をかけても、返事がない。長い黒髪が顔を隠していて、表情は見えない。
近づこうとした時、背後から声がした。
「その人に話しかけちゃダメです」
振り返ると、清掃員の老人が立っていた。
「あの人は、毎晩ここにいるんです。三年前、このホームで…」
老人が言い終わらないうちに、女性の姿が消えた。ベンチには誰もいない。
「見える人と、見えない人がいるんですよ」
老人はそう言って、モップを押しながら去っていった。
次の日から、私は夜のシフトを変えてもらった。でも時々思う。あの女性は、本当に消えたのだろうか。それとも、私が目を逸らした瞬間に、ただ移動しただけなのだろうか。
今も、あの駅では終電後にベンチに座る女性の目撃談が絶えない。駅員たちは誰も、その話題に触れようとしない。
知らないほうが、いいこともある。
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