深夜二時。
窓の外は雨だった。アパートの廊下を歩く足音が聞こえる。規則正しく、誰かがゆっくりと階段を上ってくる。
私は鍵を確認した。チェーンもかかっている。
足音は三階で止まった。私の部屋の前だ。
ドアの前で何かが立ち止まる気配。息を殺して待つ。
しばらくして、足音は遠ざかっていった。階段を下りる音。玄関の扉が開いて、閉まる。
ほっとして、もう一度窓の外を見た。
その時、気づいた。
雨の音がしない。
窓の外は濡れていない。月明かりに照らされた乾いたアスファルト。
では、あの足音は——
廊下に立つ影は、まだそこにいた。ドアスコープの向こうで、じっとこちらを見ている。
私は知っている。覗いてはいけないと。でも、見てしまった。
それは人の形をしていたが、顔がなかった。
ただ、濡れていた。全身から水が滴り落ちていた。
翌朝、管理人に聞いた。昨夜、誰か来ませんでしたかと。
「雨も降ってないのに、廊下が濡れててね。誰かが水を撒いたみたいだった」
それから毎晩、深夜二時になると足音が聞こえる。
私はもう、ドアスコープを覗かない。
覗いてしまったら、次は向こうが入ってくるかもしれないから。
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