窓の向こう側
子供の頃から、窓に近づくのが怖かった。
理由は分からない。ただ、夜の窓には何かがいると思っていた。カーテンを閉めても、その向こう側に何かが立っているような気がして、いつも布団を頭まで被って寝ていた。
大人になって、一人暮らしを始めたアパートは二階だった。窓の外は駐車場で、人が立てるような場所ではない。子供の頃の恐怖は、ただの幻想だったのだと自分に言い聞かせた。
ある夜、パソコンで仕事をしていると、ふと窓ガラスに何かが映った。
振り返ると、そこには何もなかった。カーテンは開いたまま、真っ暗な外が広がっている。でも、ガラスに映った影は確かに人の形をしていた。
翌日、大家さんに聞いてみた。
「このアパート、何か事故とかありませんでしたか?」
大家さんは少し顔を曇らせて言った。
「前の住人がね、二階から飛び降りて亡くなったんだ。でも、あなたの部屋じゃないから安心して」
安心できるはずもなかった。なぜなら、その人が飛び降りたのは、私の部屋の真向かいの部屋だったからだ。
その夜から、毎晩同じ時刻に窓の外に誰かが立つようになった。
二階なのに。駐車場の上なのに。誰かが窓の外側に、こちらを見つめて立っている。
カーテンを閉めれば見えなくなる。でも、閉めたカーテンの向こう側に、確実に誰かがいることが分かる。窓ガラスを軽く叩くような音が、毎晩聞こえるのだ。
そして今夜も、その音が聞こえている。
トン、トン、トン。
私はカーテンの向こうに目を向けない。向けてはいけない。なぜなら、今夜は初めて、その音が窓の内側から聞こえているからだ。
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