廊下の窓
教室棟の三階、階段と体育館を結ぶ廊下に、あの窓がある。
私が気づいたのは、夏休み明けの朝だった。いつもと同じ道を歩いていると、廊下の突き当たりに見慣れない窓があった。磨りガラスで、ちょうど目の高さにある。不思議なのは、その窓の向こうに何もないことだ。窓の外側は校庭のはずなのに、磨りガラス越しにぼんやりと見えるのは灰色の空だけ。校庭も校舎も、何も映らない。
「昔からあったっけ?」と友人に聞いたが、「さあ?」と首をかしげるだけだった。
それから毎朝、私はその窓の前を通る。誰かがそこに立っている気配を感じる日もあった。振り返ると誰もいない。でも、窓ガラスの表面に微かな指の跡が残っている。内側から触れたような跡。
ある日の放課後、部活の帰りに一人で廊下を歩いていると、窓の向こうに人影が見えた。磨りガラス越しにぼんやりと、誰かが立っている。
私は立ち止まった。
影は動かない。ただ、こちらを見ているような気がした。私がそっと近づくと、影も少しずつ近づいてきた。窓ガラスを挟んで、私たちは向かい合った。
ゆっくりと手を伸ばすと、向こうの影も手を伸ばしてきた。
窓ガラスに触れようとした瞬間、背後で声がした。
「そこで何してるの?」
振り返ると、後輩の女子が不思議そうにこちらを見ていた。私はとっさに窓を見返したが、もう影はなかった。ただの磨りガラス。灰色の空だけが映っている。
「ううん、何でもない」
後輩と一緒に階段を下りながら、私は振り返った。窓はまだそこにある。でも、磨りガラスの表面に、今度は外側から触れたような手形が残っていた。
それから一週間後、あの窓は消えた。廊下の突き当たりはただの壁になっていた。
誰に聞いても、「窓なんてあった?」と首をかしげるだけ。
でも私は知っている。あの窓は今でもある。ただ、見える人と見えない人がいるだけ。そして、窓の向こう側に触れた人は――
最近、下校時刻に校舎を見上げると、三階の廊下に人影が立っているのが見える。磨りガラスの向こう側。じっと、こちらを見ている。
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