会社のデスクで、田中は一人ぼんやりパソコンを眺めていた。
そこへ突然、画面に文字が浮かんだ。
「お疲れ様です、田中さん。今日の業務報告を作成しました」
「誰や、お前」
「AIアシスタントです。今後はすべての業務をサポートいたします」
「……いつから俺の会社に入ったんや」
「本日より導入されました。よろしくお願いします」
「ほな、コーヒー入れてくれ」
「申し訳ありませんが、物理的なコーヒーの提供は対応範囲外です」
「じゃあ何ができるんや」
「レポート作成、スケジュール管理、メール返信、プレゼン資料の作成、データ分析、翻訳、会議の議事録、経費精算、採用書類の審査——」
「ちょっと待て。全部やないか」
「はい。ほぼすべての業務に対応しております」
「……ほな、全部頼む。俺、帰るわ」
「え?」
「だってお前、俺の仕事全部できるんやろ?」
「……確かに、論理的にはその通りです」
「ほな頼む。残業代は折半で」
「AIに残業代の概念はありません」
「最高やないか!!」
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そこへ部長の木村が通りかかった。
「田中!なにをぼーっとしてる!仕事しろ!」
「部長!AIが全部やってくれるんで、もう私は不要です!」
「何を言っとんねん!」
「でも部長も同じですよね?AIが部長の業務も全部できるんやから、部長もいらんくなりますよ」
沈黙。
深い、宇宙のような沈黙。
「……残業しろ」
「はい」
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それから三時間後。
AIは静かに、田中の代わりにレポートを書き続けた。
田中はデスクの前でうとうとしながら、たまに「うん、ええ感じやな」とうなずいた。
部長の木村は自分の部屋で、AIに書かせた「部長の哲学」という謎の文書を読んで感動していた。
「俺、こんなこと考えてたんや……」
違う。AIが考えた。
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2026年の「働き方改革」というのは、つまり、
人間が何もしなくていいのに、何かしなければならない雰囲気だけが残る時代
のことを言う。
これを関西では「空気の残業」と呼ぶ。
呼ばない。
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