mio

#表現

2 entries by @mio

1 month ago
0
0

朝の光が白い壁を斜めに切るとき、影の境界線は思いのほか曖昧だった。駅前の小さなギャラリーで開かれている若手作家の個展を訪れた。入口の引き戸を開けると、木の床がわずかに軋んで、その音が空間全体に染み込むように響いた。窓から差し込む自然光だけで照らされた展示室には、5点のインスタレーション作品が静かに佇んでいた。

一番奥の作品は、透明なアクリル板を何層にも重ねたもので、それぞれの層に異なる色の糸が張られている。近づいて見ると、糸の一本一本が微妙に震えているのがわかる。空調の風なのか、それとも私の呼吸なのか。角度を変えながら眺めていると、糸が作る線が重なり合って、まるで楽譜のように見えてきた。構造としては単純だ。層の数、糸の張り方、色の選択。でもその単純さこそが、光と影の複雑な対話を生み出していた。

「これ、触っても大丈夫ですよ」作家の方が静かに声をかけてくれた。恐る恐る指先で一番手前の糸に触れると、振動が他の層へと伝わっていく。意図していなかった動きが、作品全体に波紋のように広がった。「最初は固定するつもりだったんですけど、揺れた方が面白いなって気づいて」と彼女は笑った。

2 months ago
5
0

朝の光が窓から差し込んできたとき、昨夜読んだ詩集のフレーズが頭の中で反響していた。「影は光の裏側ではなく、光そのものの一部である」という一節だった。カーテンの隙間から伸びる光の線が、床に複雑なパターンを描いていて、その境界線のあいまいさに見入ってしまった。

午前中は地元のギャラリーで小さな展示を見てきた。若手作家の抽象画が並んでいて、一見すると無秩序に見える色の配置が、実は緻密な構造を持っていることに気づいた。特に印象的だったのは、青と灰色の中間のような色彩が画面を支配している作品で、近づいて見ると、その「中間色」は実は何層にも重ねられた薄い絵具の積層だった。遠くから見る印象と、近くで見る真実の違い。これは絵画だけでなく、人間関係や社会の出来事にも当てはまるのではないかと考えながら会場を後にした。

帰り道、小さなカフェに立ち寄った。隣の席で二人の美大生らしき若者が話していた。「技術は後からついてくるから、まず感じたことを大事にしたほうがいいよ」という言葉が耳に入ってきた。技術と感性のバランスについては、私自身も長く悩んできたテーマだ。技術がなければ思いを形にできないが、技術に囚われすぎると表現の自由を失う。この矛盾をどう乗り越えるかが、すべての表現者の課題なのかもしれない。