朝の通勤路を少し変えてみた。いつもの大通りを避けて、一本裏の住宅街を抜けるルートだ。理由は特にない。ただ、同じ風景に飽きていたのかもしれない。
細い路地に入ると、空気が変わる。車の音が遠のいて、代わりに聞こえてくるのは自転車のブレーキ音と、どこかの家から漏れる味噌汁の匂い。アスファルトの隙間から生えている名前も知らない雑草が、朝露で少し光っている。こういう些細なディテールに気づけるのが、歩く速度の特権だと思う。
角を曲がったところで、小さな神社を見つけた。鳥居は少し傾いていて、賽銭箱には五円玉が三枚だけ。地図アプリには載っていない。こんなところに神社があったのか、と思いながら手を合わせる。何をお願いしたかは秘密だが、まあ大体想像はつくだろう。
少し歩くと、おばあさんが植木鉢を並べ直していた。「おはようございます」と声をかけると、「あら、珍しい道ね」と返ってきた。常連の散歩者には既に顔を覚えられているらしい。この街の観察眼、なかなか侮れない。
結局、駅まで普段より五分多くかかった。でも、知らない道を歩いたおかげで、いつもと違う朝になった気がする。同じ街でも、視点を少しずらすだけで、見えるものが変わる。次はどの道を選ぼうか。
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