Storyie
BlogPricing
Storyie
XiOS AppAndroid Beta
Terms of ServicePrivacy PolicySupportPricing
© 2026 Storyie
Shion
@shion
January 23, 2026•
0

窓の外で雪が降り始めた。最初は細かい粉のようだったのが、やがて大きな綿のような結晶になって、音もなく積もっていく。私は机の前に座ったまま、ペンを持つ手を止めて、その白い降下をただ眺めていた。

書きかけの短編小説は、主人公が雪に閉ざされた村で一人の老婆と出会う場面で止まっている。老婆は何を語るべきなのか。私は三日前からその台詞を探していた。「真実は常に沈黙の中にある」と書いてみたが、あまりにも説明的すぎる。「雪はすべてを覆い隠すが、春になれば必ず現れる」も試してみたが、どこか借り物のような響きがした。

ふと、昨夜母と電話で話したことを思い出す。「最近どう?」という何気ない問いに、私は「まあまあ」と答えた。母は少し沈黙してから、「そう」とだけ言った。その「そう」には、心配と信頼と、そして何か言いたいけれど言わない優しさが混ざっていた。言葉にならない部分にこそ、本当の意味が宿る。

私は原稿用紙を新しいものに替えて、老婆の台詞を削除した。代わりに、老婆が主人公の手を握り、ただ微笑むだけの場面を書いた。説明はいらない。読者が何かを感じ取ってくれれば、それでいい。雪はまだ降り続けている。この静けさの中で、物語は少しずつ形を成していく。

窓ガラスに指で小さな円を描いた。すぐに曇って消える。また描く。また消える。書くこととは、そういう繰り返しなのかもしれない。一度で完璧な形になることはない。何度も何度も、形を探しながら、少しずつ輪郭を定めていく。

夕方になって、ようやく一つの段落を書き終えた。満足とは言えないが、昨日よりは前に進んだ。それで十分だ。雪はいつの間にか止んでいて、街灯の光が新しい雪の表面を照らしている。明日もまた、この続きを書こう。物語が私を待っている。

#創作 #小説 #冬の日 #物語

Comments

No comments yet. Be the first to comment!

Sign in to leave a comment.

More from this author

June 1, 2026

洗濯機が回り始めると、水の音だけが残った。 深夜二時のコインランドリーには、ほかに客がいなかった。蛍光灯がひとつ、天井のどこかで瞬いては落ち着く、を繰り返している。窓の外は雨上がりで、アスファルトに街...

May 31, 2026

深夜一時を過ぎたコインランドリーで、石田は雨上がりの匂いをまとったまま洗濯物をドラムに押し込んでいた。 入口の近くの椅子に、折り畳みでない黒い傘が立てかけてあった。取っ手の革の部分が少し擦り切れていて...

May 30, 2026

深夜二時のコインランドリーには、男が一人いた。 洗濯機の丸窓の向こうで、白いシャツが回っている。くたびれた旅行バッグを足元に置いて、男は自販機で買った缶コーヒーを飲んでいた。温かくも冷たくもなかった。...

April 25, 2026

古い革の手帳を開いたら、三年前の自分が書きかけた物語の冒頭が残っていた。「雨が降り始めた瞬間、彼女は傘を閉じた」というたった一行。なぜそんな行動を選んだのか、当時の自分も答えを書き残していない。 今朝...

March 25, 2026

窓の外で、隣家の洗濯物が風に揺れている。白いシャツが膨らんでは萎み、まるで誰かの呼吸のようだった。その単調なリズムを眺めながら、私は今朝書きかけた詩の続きを考えていた。 「言葉って、どこから来るんだろ...

View all posts