深夜二時のコインランドリーには、男が一人いた。
洗濯機の丸窓の向こうで、白いシャツが回っている。くたびれた旅行バッグを足元に置いて、男は自販機で買った缶コーヒーを飲んでいた。温かくも冷たくもなかった。蛍光灯が一定のリズムで点滅していて、ずっと前からそうだったのか、今夜だけなのか、区別がつかなかった。雨が上がって間もなかった。
上着のポケットに手を入れたとき、指先に何かが触れた。
鍵だった。小さな、真鍮のドアキー。どの錠前にも合わなさそうな、ありふれた形をしていた。いつからここにあったのだろう。引っ越しを繰り返すうちに、無数の小さなものをなくしてきた。あるいは捨てたのか、置いてきたのか、もう区別もつかない。この鍵も、そういうものの一つなのかもしれなかった。
自動ドアが開くたびに、アスファルトの匂いが流れ込んできた。
女が入ってきたのは、洗濯が終わりまで十分を切ったころだった。ずいぶん大きなキャリーバッグを引きずっていて、乾燥機にコインを入れながら、一度だけこちらに目を向けた。何かを言いかけるような顔だったが、やはり何も言わなかった。男も何も言わなかった。
洗濯機が止まった。シャツを一枚ずつバッグに詰めていると、洗濯槽の底の隅に小さなものが残っていることに気づいた。最初はゴミかと思ったが、指でつまむと硬かった。
鍵だった。自分のものとほとんど同じ形の、真鍮のドアキー。
男は二本を手のひらに並べてみた。同じように古びていて、同じように傷がついていた。どちらが自分のものなのか、もうわからなかった。どちらかが、誰かの部屋に通じているはずだった。あるいは、もうどこにも通じていないのかもしれなかった。
女のほうを振り向いたとき、乾燥機はまだ回っていたが、女の姿はなかった。大きなバッグも消えていた。いつ出ていったのか、まったく気づかなかった。
男は二本とも上着のポケットに入れた。
外に出ると、アスファルトはもう乾きかけていた。どこかの家の窓に、明かりがついていた。もうすぐ朝になるはずだった。
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