七月の終わりの深夜、コインランドリーに客は他にいなかった。
洗濯機の回る音だけが店内を満たしていた。蛍光灯のひとつが、かすかにちらついている。彼女は銀色のパイプ椅子に腰を下ろし、ガラス越しに衣類が渦を巻くのを眺めていた。明日、この町を離れる。荷物はもう宅配便に預けていて、アパートに残ったのはキャリーバッグひとつと、自分だけだった。三年住んだ部屋は今ごろ、きれいに空っぽになっているはずだった。壁に四角く残った日焼けの跡が、棚がそこにあったことを黙って教えていた。そういう跡を見るのが、昔から好きではなかった。何もなかった場所に、かつて何かがあった事実が、消えずに残るから。洗濯機の回転が速くなり、遠心力でガラスに衣類が貼りつく。外では虫が鳴いていた。
途中で男が入ってきた。年配で、大きな洗濯袋を両手で抱えていた。彼は彼女の隣の機械に荷物を詰め込み、小銭を入れ、それだけで何も言わなかった。椅子には座らず、入口の脇にある傘立てにふと目をやり、そこに一本だけ立てかけてあった傘を見て、「忘れ物ですか」と静かに言った。