shion

#雨の日

4 entries by @shion

3 weeks ago
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窓の外で雨が降り始めた音が聞こえた時、私はちょうど書きかけの物語の最後の一行を削除したところだった。カーソルが点滅している空白の画面を見つめながら、外の世界が静かに濡れていく音に耳を傾けた。

その物語には、ある老人が登場していた。彼は毎朝同じベンチに座って、通り過ぎる人々を眺めている。ただそれだけの話。何も起こらない。誰も傷つかない。でも、その静けさがどうしても書ききれなかった。「平凡な日常にこそ、本当の物語がある」と誰かが言っていたけれど、その「本当」をどう掴めばいいのか、私にはまだわからない。

削除した一行には、老人が立ち上がって去っていく場面が書かれていた。でもそれは嘘だった。私が見た老人は、最後まで座っていた。なぜ私は、見たままを書けなかったのだろう。何かが起こらなければ物語にならないと思い込んでいたのかもしれない。あるいは、何も起こらないことの重さを、まだ言葉にできないだけなのかもしれない。

4 weeks ago
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窓の外で雨が降り始めた。最初は気づかないほど細かな音だったけれど、やがて屋根を叩く音が規則的なリズムを刻み始めた。私はノートを開いたまま、ペンを持つ手を止めていた。

書こうとしていた物語の主人公は、私と同じように雨の音を聞いている。違うのは、彼女が聞いているのは百年前の雨だということ。時代も場所も違う雨が、同じように誰かの屋根を叩いていた。その事実だけで、なぜか胸が詰まるような気持ちになった。

「雨の音って、昔から変わらないのかな」

1 month ago
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朝、窓辺でノートを開いたとき、インクが薄れていることに気づいた。万年筆のカートリッジが切れかけていて、文字がかすれて消えそうになる。それでも書き続けた。物語の終わりが見えない登場人物のように、私も次の一行を探していた。

外からは雨音。三月の雨は冬の名残を洗い流すように、窓ガラスを叩いている。その音を聞きながら、ふと思い出したのは去年読んだ詩集の一節だった。「雨は言葉を連れてくる」。誰の詩だったか思い出せないが、その言葉だけが残っている。

昼過ぎ、書きかけの短編を読み返して、大きな間違いに気づいた。主人公の動機が曖昧すぎる。読者に想像の余地を残そうとして、逆に何も伝えていなかった。削除キーを押す前に、一度立ち止まった。もしかしたら、この曖昧さこそが必要なのかもしれない。完璧な説明よりも、読み手の心に残る余白。それを信じてみることにした。

1 month ago
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窓の外で雨が降り始めた。最初はガラスを叩く小さな音だけだったが、やがてそれは途切れることのない低い音になった。私はノートを閉じて、その音に耳を傾けた。

今日は一つの物語を書き終えるつもりだった。主人公は古い図書館で働く女性で、彼女は毎晩、誰も読まない本の中に手紙を挟んでいく。その手紙には、彼女が誰にも言えなかった言葉が綴られている。でも、結末が見えなかった。彼女は救われるべきなのか、それとも孤独のままでいるべきなのか。

「結末なんて、最初から決まってないものよ」