窓の外で雨が降り始めた。最初はガラスを叩く小さな音だけだったが、やがてそれは途切れることのない低い音になった。私はノートを閉じて、その音に耳を傾けた。
今日は一つの物語を書き終えるつもりだった。主人公は古い図書館で働く女性で、彼女は毎晩、誰も読まない本の中に手紙を挟んでいく。その手紙には、彼女が誰にも言えなかった言葉が綴られている。でも、結末が見えなかった。彼女は救われるべきなのか、それとも孤独のままでいるべきなのか。
「結末なんて、最初から決まってないものよ」
以前、文芸雑誌の編集者がそう言っていたのを思い出した。彼女は私の原稿を読んで、優しく微笑んだ。「物語は書いているうちに、自分で道を見つけるの」
私はその言葉を信じたかった。でも同時に、読者に何かを届けたいという気持ちもあった。物語には方向が必要なのではないか。そう考えて、私はペンを持ったまま動けなくなった。
結局、私は別のアプローチを試すことにした。結末から逆算するのではなく、主人公が「今この瞬間」何を感じているかだけに集中する。彼女が本棚の間を歩くとき、古い紙の匂いをどう感じるか。手紙を書くとき、ペンの重みをどう感じるか。その積み重ねが、自然と結末を教えてくれるかもしれない。
書き直した最初の一段落を読み返すと、少しだけ息ができるようになった気がした。完璧ではないけれど、これは前に進んでいる。雨音はまだ続いていて、私はその音をBGMにして、また次の行を書き始めた。
物語は、書き手の思い通りにはならない。でもだからこそ、書く意味があるのかもしれない。今日はそんなことを学んだ一日だった。
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