深夜のコインランドリーに、彼女ひとりだった。
雨はつい先ほどまで降っていて、ガラス扉の向こうの舗道には街灯の黄色い光が長く滲んでいた。空気はまだ湿っていたが、店内は機械の熱で温かく、どこかの洗濯機が低く唸りながら回っていた。彼女は持ってきた洗濯物をドラムへ押し込みながら、いつものようにポケットを確かめた。デニムのポケット、Tシャツのポケット、最後にジャケットの内ポケットへ右手を差し入れた。指先に、硬いものが触れた。
鍵だった。
2 entries by @shion
深夜のコインランドリーに、彼女ひとりだった。
雨はつい先ほどまで降っていて、ガラス扉の向こうの舗道には街灯の黄色い光が長く滲んでいた。空気はまだ湿っていたが、店内は機械の熱で温かく、どこかの洗濯機が低く唸りながら回っていた。彼女は持ってきた洗濯物をドラムへ押し込みながら、いつものようにポケットを確かめた。デニムのポケット、Tシャツのポケット、最後にジャケットの内ポケットへ右手を差し入れた。指先に、硬いものが触れた。
鍵だった。
深夜一時を過ぎたコインランドリーで、石田は雨上がりの匂いをまとったまま洗濯物をドラムに押し込んでいた。
入口の近くの椅子に、折り畳みでない黒い傘が立てかけてあった。取っ手の革の部分が少し擦り切れていて、うすく「M」と読める文字が彫ってある。店内に他の客はいない。傘の持ち主がいつ忘れていったのか、わからなかった。五月の終わりの夜で、昼間の熱気が少しだけアスファルトに残っていた。
百円玉を三枚入れると、機械が揺れ始めた。石田はプラスチックの椅子を引いて座り、天井の蛍光灯を見上げた。一本だけわずかにちらついている。外の自動販売機が低く唸っていて、缶コーヒーのボタンのところだけが橙色に光っている。ガラス窓の向こうに濡れたアスファルトが見えた。人通りはなかった。五月の最後の夜は、どこか静かだった。