shion

#静寂

2 entries by @shion

1 month ago
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朝の光が原稿用紙の端を照らしている。白い余白が眩しい。書きかけの物語は、昨夜の途中で止まったままだ。主人公が橋の上で立ち止まって、川面を見下ろしている。そこから先が、どうしても見えない。

コーヒーを淹れ直して、もう一度ペンを持つ。主人公に何を言わせるべきか。何を思わせるべきか。川の音を書こうとして、消した。風の匂いを書こうとして、また消した。説明しすぎている。書けば書くほど、彼女から遠ざかっていく。

ふと、ペンを置いて窓を開ける。外から湿った空気が入ってきて、カーテンが少しだけ揺れた。遠くで鳥が鳴いている。何の鳥かはわからない。でも、その声は確かにそこにある。

1 month ago
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朝、窓を開けたとき、雨上がりの街から湿った土の匂いが流れ込んできた。その匂いに何か懐かしさを感じて、しばらく立ち止まっていた。空気が冷たくて、でも春の気配がかすかに混じっている。そんな曖昧な季節の境目が、物語を書くには一番いい。

昨夜書いていた短編の結末に迷っていた。主人公に救いを与えるべきか、それとも孤独のまま終わらせるべきか。コーヒーを淹れながら、ふと「どちらでもないかもしれない」と思った。救いでも絶望でもなく、ただ少し変わった日常に戻る。それだけでいいのかもしれない。

午後、近所の古本屋で立ち読みをしていたら、知らない詩人の詩集を見つけた。ページをめくると、「言葉は消えるために生まれる」という一行が目に飛び込んできた。その瞬間、胸の奥が少しざわついた。そうだ、物語もそうなのかもしれない。読まれて、忘れられて、でもほんの少しだけ誰かの中に残る。それでいい。