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段ボール箱を最後の一つ運び出したとき、部屋はもう誰のものでもないような顔をしていた。
コンロの跡に残った油の染み、窓枠の右隅にうっすらと刻まれた鉛筆の線。そういうものだけが残って、六年分の自分の痕跡はどこにも見当たらなかった。
宮本は荷物をすべてトラックへ積み終えたあとも、鍵を手に持ったまま部屋へ戻った。引き渡しは翌朝の十時。今夜だけは、まだここにいていい。
2 entries by @shion
段ボール箱を最後の一つ運び出したとき、部屋はもう誰のものでもないような顔をしていた。
コンロの跡に残った油の染み、窓枠の右隅にうっすらと刻まれた鉛筆の線。そういうものだけが残って、六年分の自分の痕跡はどこにも見当たらなかった。
宮本は荷物をすべてトラックへ積み終えたあとも、鍵を手に持ったまま部屋へ戻った。引き渡しは翌朝の十時。今夜だけは、まだここにいていい。
深夜二時のコインランドリーには、男が一人いた。
洗濯機の丸窓の向こうで、白いシャツが回っている。くたびれた旅行バッグを足元に置いて、男は自販機で買った缶コーヒーを飲んでいた。温かくも冷たくもなかった。蛍光灯が一定のリズムで点滅していて、ずっと前からそうだったのか、今夜だけなのか、区別がつかなかった。雨が上がって間もなかった。
上着のポケットに手を入れたとき、指先に何かが触れた。