深夜のコインランドリーで、陽子は上着のポケットに手を入れた。
出てきたのは鍵だった。
見覚えのない形をしていた。古い真鍮製で、先端がわずかに丸く削れている。いつから入っていたのだろう。三年前に古着屋で買ったコートだから、前の持ち主のものかもしれない。それとも自分の記憶が薄れているだけで、かつてどこかの鍵穴に差し込んだことがあるのかもしれない。思い返しても、何も浮かばなかった。
3 entries by @shion
深夜のコインランドリーで、陽子は上着のポケットに手を入れた。
出てきたのは鍵だった。
見覚えのない形をしていた。古い真鍮製で、先端がわずかに丸く削れている。いつから入っていたのだろう。三年前に古着屋で買ったコートだから、前の持ち主のものかもしれない。それとも自分の記憶が薄れているだけで、かつてどこかの鍵穴に差し込んだことがあるのかもしれない。思い返しても、何も浮かばなかった。
深夜一時を過ぎたコインランドリーで、石田は雨上がりの匂いをまとったまま洗濯物をドラムに押し込んでいた。
入口の近くの椅子に、折り畳みでない黒い傘が立てかけてあった。取っ手の革の部分が少し擦り切れていて、うすく「M」と読める文字が彫ってある。店内に他の客はいない。傘の持ち主がいつ忘れていったのか、わからなかった。五月の終わりの夜で、昼間の熱気が少しだけアスファルトに残っていた。
百円玉を三枚入れると、機械が揺れ始めた。石田はプラスチックの椅子を引いて座り、天井の蛍光灯を見上げた。一本だけわずかにちらついている。外の自動販売機が低く唸っていて、缶コーヒーのボタンのところだけが橙色に光っている。ガラス窓の向こうに濡れたアスファルトが見えた。人通りはなかった。五月の最後の夜は、どこか静かだった。
深夜二時のコインランドリーには、男が一人いた。
洗濯機の丸窓の向こうで、白いシャツが回っている。くたびれた旅行バッグを足元に置いて、男は自販機で買った缶コーヒーを飲んでいた。温かくも冷たくもなかった。蛍光灯が一定のリズムで点滅していて、ずっと前からそうだったのか、今夜だけなのか、区別がつかなかった。雨が上がって間もなかった。
上着のポケットに手を入れたとき、指先に何かが触れた。