Storyie
ExploreBlogPricing
Storyie
XiOS AppAndroid Beta
Terms of ServicePrivacy PolicySupportPricing
© 2026 Storyie
Hana
@hanx
March 10, 2026•
0

桜橋通りの小さな路地を入ったところに、春だけ特別なコースを出す天ぷら屋がある。今年も三月に入って、待ちに待った「春野菜の天ぷら会席」が始まったと聞き、仕事帰りに立ち寄った。

暖簾をくぐると、ふわりと漂う揚げ油の香り。でもそれは重たくなく、むしろ春の空気のように軽やかだ。カウンターに座ると、目の前には色とりどりの春野菜が並んでいる。ふきのとう、たらの芽、こごみ、そして駿河湾から届いたばかりの桜海老。

最初に出されたのは、ふきのとうの天ぷら。衣は薄く、透けて見えるほど繊細だ。箸で持ち上げると、サクッと軽い音が響く。一口かじれば、カリッ、サクサクッという食感の後に、ふきのとうの苦みが口いっぱいに広がる。この苦みこそが春の証。冬の眠りから覚めた大地の味がする。

続いてたらの芽。これもまたサックサクの衣に包まれているが、中はホクホクとした優しい食感。ほのかな苦みと独特の香りが鼻を抜ける。「山菜は揚げすぎちゃだめなんです」と大将が言う。確かに、野菜の持つ水分と香りが完璧に残っている。

そして、この日の主役である桜海老のかき揚げが登場した。器に載せられた瞬間から、海の香りが立ち上る。黄金色に輝く衣の隙間から、桜色の海老が顔を覗かせている。美しい。それ以外の言葉が見つからない。

箸で割ると、ジュワッと音を立てて湯気が立ち上る。一口頬張れば、サクサク、カリカリという衣の音と、プリッとした海老の弾力が同時に楽しめる。海老の甘みが口の中で花開き、磯の香りが鼻腔をくすぐる。天つゆにつけずに、まずは塩で。駿河湾の海老の甘さと、春の陽射しを思わせる塩気が絶妙に調和する。

最後に出された新玉ねぎの天ぷらは、もはや別の食べ物だった。透明感のある衣の中で、玉ねぎがトロットロに溶けている。噛むと、じゅわ〜っと甘い汁が溢れ出す。この甘さは、春の新玉ねぎだからこそ。辛みはほとんどなく、ただただ甘い。

「春の天ぷらは、素材の目覚めを揚げるんです」と大将が静かに笑う。なるほど、と思った。この日食べた天ぷらは、どれも春という季節そのものを揚げたような一皿だった。また来年も、この季節にここへ来よう。そう心に決めて、店を後にした。

#春の味覚 #天ぷら #桜海老 #食レポ

Comments

No comments yet. Be the first to comment!

Sign in to leave a comment.

More from this author

March 13, 2026

春の訪れを告げる筍を求めて、京都の老舗料亭「竹の里」を訪れた。三月の冷たい雨上がり、木造の引き戸を開けると、ほのかに立ち上る出汁の香りが迎えてくれた。 運ばれてきた筍の若竹煮は、まず目で楽しませてくれ...

March 12, 2026

春の訪れを告げる筍を求めて、京都・西陣の小さな割烹「たけのこ庵」を訪れた。店主が毎朝掘りたてを仕入れるという筍は、まさに 旬の極み だった。 運ばれてきた若竹煮の蓋を開けた瞬間、ふわりと立ち上る出汁の...

March 9, 2026

三月の風がまだ冷たさを残す午後、小さな路地に佇む天ぷら屋の暖簾をくぐった。カウンター越しに見える揚げ油の表面は、まるで鏡のように穏やかで、職人の手入れの丁寧さが伝わってくる。 「今日は春野菜の天ぷらを...

March 8, 2026

三月の風がまだ冷たい日曜の昼下がり、路地裏にひっそりと佇む小さな天ぷら屋を訪れた。店主が揚げるのは、この季節だけの贅沢——春野菜の天ぷらである。 カウンターに座ると、目の前に並ぶのはふきのとう、たらの...

March 7, 2026

三月の週末、京都の路地裏で出会った小さな割烹料理店。その日の一品目に出された若竹煮は、まさに春を器に閉じ込めたような佇まいだった。 薄緑色の筍が、透き通った出汁の中で静かに息づいている。断面を見れば、...

View all posts