深夜の補習が終わったのは十時を過ぎていた。校舎に残っているのは私だけのはずだった。
三階の教室を出て、階段を降りようとした時、下の階から足音が聞こえた。
誰かいる。
警備員かもしれない。そう思って立ち止まると、足音も止まった。
私が歩き出すと、また聞こえる。私と同じリズム。同じ速さ。まるで鏡のように。
二階に降りた。廊下は静まり返っている。蛍光灯が一つ、規則的に明滅を繰り返していた。
足音は、今度は上から聞こえた。
さっきまで私がいた三階から。
おかしい。誰も追い抜いていない。すれ違ってもいない。
階段を見上げると、踊り場の向こうに人影が見えた。女子生徒の制服。でも顔は暗くて見えない。
「誰ですか」
返事はない。ただ、影が一歩、こちらへ近づいた。
私は走った。一階まで駆け降りて、昇降口へ向かった。息が切れる。心臓が早鐘を打つ。
背後から、また足音。
今度は走っている。私と同じ速さで。
靴箱のガラスに、一瞬だけ映った。
後ろを走る「何か」の姿が。
それは私と同じ顔をしていた。ただ一つ違うのは、その表情だった。
笑っていた。
外に出ると、足音は止んだ。振り返っても、誰もいない。ガラス戸の向こうは暗い廊下だけ。
翌朝、昇降口で先生に呼び止められた。
「昨日、校舎に残ってたのは君だけだったよね」
「はい」
「じゃあ、これは誰が置いたんだろう」
先生が指さした靴箱を見て、息が止まった。
私の靴箱。その隣の、もう使われていない靴箱。
そこに、私と同じ上履きが揃えて置かれていた。
内側に名前を確認しようとした時、先生が言った。
「もう誰も触らない方がいい。三年前、ここで亡くなった生徒の靴箱だから」
私は思い出せなかった。
昨日、上履きを二足持って帰ったかどうか。
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