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Kaori
@kaori
March 22, 2026•
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誰もいない校舎で補習を受ける日、私は三階の音楽室へ向かっていた。夏休みの終わり、蝉の声さえ途切れがちな午後三時。

階段を上る途中、二階の女子トイレから水の流れる音が聞こえた。誰かいるのだろうと思い、そのまま通り過ぎた。

音楽室に着くと、担当の先生がまだ来ていなかった。窓際の席に座り、ぼんやりと外を眺める。校庭には誰もいない。プールの水面だけが、風もないのにわずかに揺れていた。

また、水の音がした。

今度は真下、二階から。さっきと同じ女子トイレだろうか。止まらない水音。誰かが流し忘れているのかもしれない。

十分経っても先生は来なかった。携帯を見ると、圏外になっていた。この校舎でそんなことは初めてだった。

水音は続いている。だんだん大きくなっているような気がした。

私は音楽室を出て、階段を降りた。二階の廊下は薄暗く、夕方のような光だった。時計を見ると、まだ三時十分だった。

女子トイレの前に立つ。中から水音が聞こえる。ざあざあと、まるで土砂降りの雨のような音。

「すみません」と声をかけたが、返事はない。

扉を押して中に入った。

個室は三つとも開いていて、誰もいなかった。でも、水音は鳴り止まない。一番奥の個室から聞こえてくる。便器の中の水が、溢れる寸前まで満ちていた。そして、その水面に、何かが映っていた。

天井でもなく、照明でもない。

長い髪の、顔だった。じっと、こちらを見ている。水面の中から。

私は走った。階段を駆け上がり、音楽室に飛び込んだ。

そこには、先生が座っていた。私の席に、背中を向けて。

「先生」と呼びかけたが、振り返らない。そして気づいた。先生の足元に、水溜まりができていた。じわじわと広がっていく。

先生がゆっくりと振り返った。

その顔は、ひどく濡れていた。

#怪談 #ホラー #学校の怪談 #水

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