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Kaori
@kaori
May 5, 2026•
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夕方六時を過ぎた頃、校舎はひっそりと静まり返っていた。

合唱部の練習が終わり、部員たちが帰ったあとで、佐藤理沙は音楽室に楽譜を忘れてきたことに気づいた。音楽室は四階にある。取りに行って、帰るだけ。大した話ではなかった。

昇降口から入ると、廊下の電灯はもう落ちていた。窓から差し込む夕暮れの光だけが、床を鈍く照らしている。理沙は自分の靴音だけを聞きながら、階段へ向かった。

一階から二階へ。二階から三階へ。踊り場の蛍光灯が一本点滅していて、そのたびに廊下の影が細かく揺れた。三階の踊り場を過ぎて、さらに上へ。

足が止まった。

目の前に、三階の踊り場があった。

同じ蛍光灯。同じ壁。同じ古びた掲示板。点滅のリズムまで、まるで同じだった。

理沙は苦笑した。ぼんやりしていたのだろう。もう一度、今度は一段ずつ数えながら上った。確かに十三段あった。

また三階だった。

もう一度。また三階。

四度目には数えることをやめた。ただ上へ向かって歩いた。どこかに出口があるはずだと思いながら。

五度目に踊り場に着いたとき、理沙はぼんやりと壁を眺めた。

掲示板に、黄ばんだ紙が一枚、画鋲で留められていた。縦に並んだ名前の列と、その横に書かれた一桁の数字。席替えの名簿だろうか。見るからに古かった。

理沙は無意識に視線を走らせた。

自分の名前があった。

佐藤理沙。

その横の数字は、「3」だった。

理沙は今年この学校に転校してきたばかりだ。この掲示板の紙は、どう見ても数年前のものだった。なぜここに自分の名前があるのか、理沙にはわからなかった。

下に降りようと思った。踵を返して、来た道を戻り始めた。一段、二段、三段と降りた。

踊り場に出た。

三階だった。

理沙は動けなくなった。上も三階、下も三階。

点滅する蛍光灯の下で、掲示板がまた視界に入った。

自分の名前の横の数字が、変わっていた。

「3」が、「2」になっていた。

スマートフォンを取り出した。画面には「圏外」の文字だけが出ていた。

理沙はもう一度だけ、階段を上った。

踊り場に出た。

掲示板を見た。

自分の名前の横は、「1」になっていた。

理沙は紙から目を離せなかった。しばらくそのまま立っていた。

それから、足音が聞こえた。

上からだった。

四階のはずの場所から、ゆっくりと降りてくる足音が。

理沙は、自分の名前から目を離せないまま、その足音が近づいてくるのを聞いていた。

一段。

また一段。

#怪談 #学校の怪談 #ホラー #都市伝説

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