深夜二時、私は学校の屋上にいた。
取材のためだ。ある生徒が「夜中に屋上から音が聞こえる」という噂を教えてくれた。教師に聞いても、屋上の扉は施錠されているという。だが、噂は消えない。
懐中電灯を消して、目を慣らす。月明かりだけが頼りだった。
最初は何も聞こえなかった。風の音、遠くの車のエンジン音。そして、かすかに——水の音。
ぽたり。
ぽたり。
屋上に水道はない。雨も降っていない。私は音の方へ歩いた。
フェンスの向こう、校庭を見下ろす場所。そこに、小さな水たまりがあった。月光を反射して、黒く光っている。
ぽたり。
真上を見る。何もない。夜空があるだけ。それなのに、水は落ち続けている。
水たまりに顔が映った。私の顔——ではない。
髪が長い。目が細い。口が、わずかに開いている。
私は後ずさった。水たまりの中の顔は、そのまま私を見上げていた。まばたきもせず。
「ここに来るんじゃなかった」
私は階段を駆け下りた。背中に、水の音が追いかけてくる。
翌朝、屋上を確認した。水たまりはなかった。地面は完全に乾いていた。
だが、私の靴の裏は、まだ濡れている。
あの水は、どこから来たのだろう。
そして、あの顔は誰だったのだろう。
昨夜から、家の洗面所に水が溜まっている。蛇口は閉めているのに。鏡を見るたびに、一瞬、自分の顔が違って見える。
今夜も、ぽたり、と音がする。
寝室の天井から。
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