夜の十一時過ぎ、駅のホームで最終電車を待っていた。
人影はまばらで、蛍光灯がひとつ、奥の方でゆっくりと明滅していた。ベンチに座って、スマートフォンを眺めていると、隣に誰かが腰を下ろした。
気配で気づいた。視線を向けずに、画面越しに確認した。セーラー服の女の子。制服は古い型で、夏でもないのに薄い生地だった。
「次の電車、何時ですか」
声は聞こえた。だが、聞こえ方がおかしかった。少し遠くから、水の底から浮かび上がってくるような声だった。
答えようとして、顔を上げた。
ベンチは空だった。
誰もいなかった。
立ち上がって、辺りを見渡した。ホームには私以外に三人の乗客がいたが、誰もセーラー服ではなかった。隣のホームも、階段も、見える範囲に女の子の姿はなかった。
電車が来た。乗り込んで、ドアが閉まった。
発車してしばらく、窓に映る自分の顔の後ろに、何かが映っているのに気づいた。
暗い車内の、私の席のひとつ後ろ。
誰かが座っている。
振り返ろうとした。でも、できなかった。体が動かなかったのではない。振り返ってはいけないと、理由もなく確信していた。
その確信だけが、今も私の中に残っている。
あの夜から、最終電車には乗らないようにしている。
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