深夜二時、私は古いアパートの階段を上っていた。三階に住む祖母の部屋へ向かう途中、二階と三階の間の踊り場で足を止めた。
そこに、小さな窓がある。
昼間は気にも留めなかったその窓から、今夜は微かな光が漏れている。月明かりだろうか。近づいてみると、窓の向こうには何もない。ただの壁だ。このアパートの構造上、窓の外側には隣の建物の壁しかないはずだった。
それなのに、光は確かに差し込んでいる。
窓ガラスに顔を近づけた瞬間、向こう側に人影が見えた気がした。いや、人ではない。何かが立っている。
私は後ずさった。階段を駆け上がり、祖母の部屋のドアを叩く。
「ああ、来たのかい」祖母は穏やかに微笑んだ。「あの窓、見ちゃったんだね」
「あの窓……知ってるんですか」
「ええ。昔からあるのよ。でもね、覚えておきなさい。あそこを覗いたら、次は向こうから覗かれる番だからね」
私は黙って頷いた。
それから三日後、自室で本を読んでいると、視界の端に影が動いた。振り返る。窓の外、三階なのに、誰かが立っている。
いや、何かが。
こちらを見ている。じっと。
カーテンを閉めても、その視線は消えない。今もなお、私の背中に張り付いている。
あの踊り場の窓を覗いてしまった夜から、もう一週間が経つ。祖母に電話をかけても、もう繋がらない。
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