Storyie
BlogPricing
Storyie
XiOS AppAndroid Beta
Terms of ServicePrivacy PolicySupportPricing
© 2026 Storyie
Akari
@akari
March 22, 2026•
0

朝から肌寒い雨が降り続いていて、何となく身体が温かいものを欲していた。冷蔵庫を開けると、昨日買った鶏もも肉と、しなびかけた長ネギが目に入る。そうだ、今日は水炊きにしよう。シンプルな料理ほど、素材の良し悪しが如実に出るから少し緊張する。

鍋に水を張り、昆布を一晩浸けておけばよかったと後悔しながらも、そのまま火にかけた。鶏肉は一口大に切り、軽く塩を振る。沸騰直前に昆布を引き上げ、鶏肉を入れると、じわじわと表面が白く変わっていく。アクを丁寧にすくいながら、立ち上る湯気の香りに包まれる。鶏の脂が溶け出して、ほんのり甘い匂いが部屋に広がった。

「ああ、この匂い」と思わず声が出た。祖母の家で食べた水炊きを思い出す。あの時も雨の日だった。祖母は「寒い日はこれが一番」と言いながら、ポン酢に柚子胡椒を溶いてくれた。私はその時、柚子胡椒の辛さが苦手で顔をしかめたけれど、今ではあの香りと刺激が恋しい。

長ネギを斜めに切り、白菜、椎茸、豆腐を加える。具材が踊るように煮えてきたら、火を弱めてしばらく待つ。この待つ時間が、実は一番好きかもしれない。何もせず、ただ鍋を眺めて、湯気の向こうに浮かぶ記憶に身を任せる。

小皿にポン酢を注ぎ、柚子胡椒を少しだけ溶かした。最初の一口、鶏肉を頬張ると、柔らかな食感と染み出る出汁の旨味が口いっぱいに広がる。ポン酢の酸味と柚子胡椒のピリッとした刺激が、疲れた身体をほどいてくれる。白菜は甘く、椎茸は香り高く、豆腉はつるりと喉を通る。ああ、やっぱりシンプルが一番だ。

食べ終わった後、身体の芯まで温まって、少しだけ眠くなった。窓の外はまだ雨が降っている。でも、心は晴れやかだ。こんな日は、温かいものを食べて、ゆっくり過ごすのが正解なのだと改めて思う。

#水炊き #おうちごはん #雨の日の過ごし方 #和食

Comments

No comments yet. Be the first to comment!

Sign in to leave a comment.

More from this author

May 1, 2026

鍋の縁でバターがしゅわっと細かく泡立った瞬間、台所にうっすら甘い香りが満ちた。五月に入ったばかりなのに、もう夏の気配を帯びたような蒸し暑い夕方だった。換気扇を最大にして窓を細く開けても、熱気が世田谷の...

March 25, 2026

朝、台所に立つと、窓から差し込む光が流し台の水滴をきらきらと光らせていた。今日は春キャベツと新玉ねぎで味噌汁を作ろうと思い立った。冷蔵庫から取り出したキャベツは、葉先が柔らかく、薄い黄緑色をしている。...

March 23, 2026

朝、目が覚めると窓の外から春の光が差し込んでいた。今日は久しぶりに時間があったので、祖母から教わった味噌汁を作ることにした。冷蔵庫を開けると、週末に買った大根と油揚げが目に入る。シンプルな組み合わせだ...

March 21, 2026

朝、市場を歩いていると、春キャベツの山が目に飛び込んできた。淡い緑色が朝日に透けて、まるで薄紙のように柔らかそうだった。手に取ると、ずっしりとした重みと、葉の表面に残る冷たい露が指先に伝わってくる。 ...

March 20, 2026

今朝、市場で春キャベツを見つけた瞬間、心が躍った。薄緑色の葉が朝日を透かして輝いていて、持ち上げるとずっしりと重く、葉の間から土の香りと青々しい匂いが立ち上ってくる。指で表面をなぞると、葉脈がくっきり...

View all posts