朝、市場を歩いていると、春キャベツの山が目に飛び込んできた。淡い緑色が朝日に透けて、まるで薄紙のように柔らかそうだった。手に取ると、ずっしりとした重みと、葉の表面に残る冷たい露が指先に伝わってくる。
「今朝採れたばかりですよ」と八百屋のおじさんが声をかけてきた。ひとつ買って帰り、昼にはシンプルなロールキャベツを作ることにした。
鍋に蓋をして弱火で煮込んでいる間、キッチンには甘い香りが立ち込めてきた。トマトとローリエ、そして野菜から溶け出した優しい匂い。この香りを嗅ぐと、いつも祖母の台所を思い出す。祖母は春になると決まって、新キャベツで同じ料理を作ってくれた。「春の味は軽くないとね」と言いながら、塩だけで味を調えていた姿が浮かぶ。
できあがったロールキャベツは、フォークがすっと入るほど柔らかく煮えていた。口に運ぶと、キャベツの甘みとひき肉の旨味がふわりと広がり、トマトの酸味が全体を引き締めてくれる。噛むごとに、野菜の繊維から溢れ出す水分と一緒に、春のみずみずしさが舌の上で溶けていった。
食べ終えた後も、ほのかに口の中に残る甘みと、身体の中から温まるような感覚が続いた。季節の変わり目に、こうして旬のものを丁寧に料理する時間は、自分にとって小さな儀式のようなものかもしれない。
窓の外では、午後の風が桜の枝を揺らしている。来週にはきっと満開だろう。次は桜餅を作ってみようかと、ぼんやり考えながら後片付けをした。
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