朝、市場で見かけた山菜の鮮やかな緑に、思わず足を止めた。ふきのとうの独特な苦みが恋しくて、少し多めに買ってしまった。手に取ると、葉の裏側に小さな雫がついていて、採れたての新鮮さが伝わってくる。
家に帰って天ぷらにしようと決めた。衣を薄めに作るのがコツだと、母がよく言っていた。小麦粉と冷水を混ぜるとき、「混ぜすぎないこと」と彼女の声が聞こえる気がする。油の温度は170度くらい、菜箸を入れて小さな泡が静かに上がるくらいがちょうどいい。
ふきのとうを油に落とすと、ジュワッという音とともに、春の香りが部屋中に広がった。この香り、祖母の家の台所を思い出す。祖母は山菜採りが好きで、春になると必ず「一緒に行くか」と誘ってくれた。私はまだ小学生で、山道を歩くのが少し怖かったけれど、祖母の後ろをついて歩いた。「ほら、ここにあるよ」と祖母が指さす先に、ふきのとうの小さな芽が顔を出していた。