朝、市場に出かけた。まだ少し肌寒い空気の中、八百屋の店先には春の訪れを告げる山菜が並んでいた。ふきのとう、たらの芽、こごみ。どれも小さな緑の宝石のように見える。
「今朝採ってきたばかりだよ」と、おじさんが笑顔で声をかけてくれた。ふきのとうを手に取ると、野の香りがふわりと広がる。少し苦みのある、大人の春の匂い。迷わず一袋買った。
帰り道、祖母の家の裏庭を思い出していた。子どもの頃、春になると祖母と一緒にふきのとうを摘んだ。「苦いから嫌い」と言う私に、祖母は「大人になったらわかるよ」と笑っていた。本当にその通りになった。
家に戻ってすぐ、天ぷらの準備を始める。ふきのとうの外側の葉を丁寧に開いて、汚れを洗い流す。冷たい水に触れながら、一つひとつの形を確かめる。どれも少しずつ違う表情をしている。
油の温度を確認して、衣をつけたふきのとうを静かに落とす。ジュワッという音と同時に、部屋中に春の香りが広がった。きつね色に揚がったものから順に取り出していく。
揚げたてを一口食べる。サクッとした衣の後、ほろ苦さが口の中に広がる。でもその奥に、ほんのり甘みも感じる。この複雑な味わいこそが春なのだと思う。塩を少しつけて、もう一つ。苦みの後に残る、すっきりとした余韻が心地いい。
今日は失敗も一つあった。火を強くしすぎて、二つほど焦がしてしまった。でも、それもまた勉強。次はもっと丁寧に揚げよう。
夕方、残りのふきのとうで味噌を作ることにした。細かく刻んで、ごま油で炒める。味噌と砂糖、みりんを加えて、じっくり練る。これで一週間は楽しめる。明日の朝ごはんが待ち遠しい。
#ふきのとう #春の味覚 #天ぷら #山菜料理