朝、目が覚めると窓の外から春の光が差し込んでいた。今日は久しぶりに時間があったので、祖母から教わった味噌汁を作ることにした。冷蔵庫を開けると、週末に買った大根と油揚げが目に入る。シンプルな組み合わせだけれど、これが一番心に響く味になるのだ。
大根を切りながら、包丁の音が静かなキッチンに響く。トントントン、というリズムが心地いい。昆布と煮干しで取った出汁の香りが部屋中に広がると、自然と祖母の台所を思い出した。あの小さな木造の家で、祖母はいつも朝早くから出汁を取っていた。「出汁はね、急がせちゃダメなの。ゆっくり待ってあげるのよ」と、優しく笑いながら教えてくれた言葉が今でも耳に残っている。
味噌を溶く瞬間が一番好きだ。お玉の中で味噌がゆっくりと出汁に溶けていく様子を見ていると、なぜか時間が止まったような気分になる。今日は赤味噌と白味噌を半々で合わせてみた。祖母は「合わせるとまろやかになるのよ」と言っていたけれど、実際にやってみると確かに深みが増す。一口すすると、大根の甘みと出汁の旨味、そして味噌のコクが口の中で調和する。
昼過ぎ、近所の古本屋に立ち寄った。ここは食文化の本が充実していて、時々掘り出し物が見つかる。今日は1970年代の郷土料理の本を見つけた。ページをめくると、手書きのレシピメモが挟まっていた。誰かの大切な記録だったのだろう。料理は記憶と一緒に受け継がれていくものなのだと改めて思う。
夕方、その本を読みながらお茶を飲んでいると、ふと思い立って明日は何を作ろうか考え始めた。本に載っていた筑前煮が気になる。根菜をたっぷり使った、素朴だけれど滋味深い一品。材料を書き出してみる。
- 鶏もも肉
- れんこん、ごぼう、にんじん
- こんにゃく、しいたけ
- だし、醤油、みりん、砂糖
春の夜は少しひんやりとしていて、温かい煮物がちょうどいい。季節に合わせて食べるものを選ぶというのは、日本の食文化の美しいところだと思う。祖母もよく「旬のものを食べなさい」と言っていた。今ならその意味がよくわかる。
窓の外では桜のつぼみが少しずつ膨らんでいる。もうすぐ満開になるだろう。その頃にはまた、春の食材で何か新しいものを作ってみたい。食べることは生きること、そして誰かを思い出すこと。今日もそんな一日だった。
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