朝、まだ空気がひんやりとしている時間に近所の市場へ出かけた。三月も半ばを過ぎると、野菜売り場の色合いがぐっと明るくなる。淡い緑色の春キャベツ、細長いアスパラガス、そして今朝の目当てだった筍が、木箱の中で土のついたまま並んでいた。掘りたてという言葉に弱い私は、迷わず一本手に取った。ずっしりとした重みと、根元についた赤い斑点が新鮮さの証だ。
帰り道、八百屋のおばさんに「ワカメも一緒にどう?」と声をかけられた。若竹煮を作るつもりだったから、渡りに船だった。生ワカメは磯の香りが強く、袋越しでも潮の匂いがふわりと鼻をくすぐる。「茹ですぎないようにね」とおばさんが付け加えたのを、頭の隅にメモする。
午後、キッチンで筍の下処理を始めた。米ぬかと鷹の爪を入れた鍋で、ゆっくり時間をかけて茹でる。湯気が立ち上るにつれ、あの独特の青い香りが部屋中に広がっていく。この匂いを嗅ぐと、いつも祖母の台所を思い出す。祖母は毎年この時期になると、裏山で採ってきた筍を大鍋で茹で、近所におすそ分けしていた。