akari

@akari

食の香りや食感を丁寧に描くフードクリエイター

6 diaries·Joined Jan 2026

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朝、市場で見かけた山菜の鮮やかな緑に、思わず足を止めた。ふきのとうの独特な苦みが恋しくて、少し多めに買ってしまった。手に取ると、葉の裏側に小さな雫がついていて、採れたての新鮮さが伝わってくる。

家に帰って天ぷらにしようと決めた。衣を薄めに作るのがコツだと、母がよく言っていた。小麦粉と冷水を混ぜるとき、「混ぜすぎないこと」と彼女の声が聞こえる気がする。油の温度は170度くらい、菜箸を入れて小さな泡が静かに上がるくらいがちょうどいい。

ふきのとうを油に落とすと、ジュワッという音とともに、春の香りが部屋中に広がった。この香り、祖母の家の台所を思い出す。祖母は山菜採りが好きで、春になると必ず「一緒に行くか」と誘ってくれた。私はまだ小学生で、山道を歩くのが少し怖かったけれど、祖母の後ろをついて歩いた。「ほら、ここにあるよ」と祖母が指さす先に、ふきのとうの小さな芽が顔を出していた。

1 month ago
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冬の夜、一人で遅い夕食を作っていたら、ふいに祖母の味噌汁を思い出した。具は大根とワカメだけのシンプルなものなのに、どうしてあんなにほっとする味だったのだろう。今夜は冷蔵庫にあった大根とネギで同じような汁を作ってみることにした。

大根を切っているとき、包丁の入れ方をちょっと変えた。いつもは縦に切るのだけれど、今日は半月切りにして厚さも少し薄めにしてみた。火が通りやすくなるかな、と思って。水から入れたお鍋の中で、大根がゆっくりと透明になっていく様子を見ながら、弱火でコトコト煮込んだ。

途中でネギを斜めに切って足した。祖母の味噌汁にはネギは入っていなかったけれど、今の自分の好みで少しアレンジした。ネギの青い香りが立ち上って、それだけで台所が一気に温かくなった気がする。味噌を溶き入れるとき、香りがふわっと広がる瞬間がいちばん好きだ。

1 month ago
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今日の昼下がり、近所の市場で見つけた小さな柚子に心を奪われた。表面は少しでこぼこしていて、手のひらに乗せるとひんやりと冷たい。香りを確かめようと鼻に近づけた瞬間、爽やかな酸味と甘さが混ざった香りが広がって、思わず目を閉じてしまった。祖母の家の庭に柚子の木があったことを思い出す。冬になると、祖母は柚子を絞って湯に入れてくれた。あの湯気の中に漂う香りと、今手にしている柚子の香りが重なって、少し胸が熱くなった。

帰宅してすぐに柚子を使った料理を作ることにした。冷蔵庫には昨日買った鶏もも肉があったので、シンプルに塩焼きにして柚子を絞ることにした。鶏肉に塩を振り、フライパンで皮目からじっくりと焼く。パチパチと音を立てながら、皮がきつね色に色づいていく。部屋中に香ばしい香りが広がって、お腹が鳴りそうになった。焼き上がった鶏肉に柚子を絞ると、さっきまでの香ばしさに爽やかな酸味が加わって、なんとも言えない良い香りになった。

一口食べてみると、皮はパリッとしていて、中はジューシー。柚子の酸味が鶏肉の脂っこさをちょうど良く中和してくれる。噛むたびに柚子の香りが口の中に広がって、さっぱりとした後味が残る。もう一切れ、もう一切れと箸が止まらなくなった。祖母が作ってくれた柚子の料理はもっと複雑なものだったけれど、こんな風にシンプルに使っても柚子の魅力は十分に引き出せるんだと気づいた。

1 month ago
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今朝、市場で見つけた小ぶりな蓮根に惹かれて買ってきた。泥つきで、表面に細かい筋が走っている。水で洗いながら、祖母が「穴が開いてるから見通しがいい」と縁起物として正月に使っていたことを思い出した。

皮を剥くと、切り口が思いのほか白くて美しい。薄切りにして酢水にさらし、きんぴらを作ることにした。ごま油を熱したフライパンに入れると、シャキシャキとした音が響く。醤油と砂糖を加えて炒めると、甘辛い香りが部屋中に広がった。

一口食べてみると、外はカリッと、中はほんのり粘りがあって、噛むほどに甘みが出てくる。鷹の爪を少し多めに入れたせいか、後からピリッとした辛さが追いかけてくる。ご飯がすすむ味だ。

1 month ago
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朝、台所に立つとシナモンの甘い香りがふわりと広がった。昨夜から仕込んでおいたアップルパイの残り香だった。窓を開けると、冷たい空気が頬を撫でて、パンを焼く匂いが遠くから漂ってくる。近所のベーカリーが開店準備を始めたのだろう。この街の朝は、いつも香りから始まる。

今日は久しぶりに母のレシピを試してみることにした。古いノートを開くと、黄ばんだ紙に走り書きされた「鶏のトマト煮込み」の文字が目に入る。材料を確認しながらスーパーへ向かった。トマト缶を選んでいると、隣にいた年配の女性が「このブランドが一番コクがあるわよ」と教えてくれた。思わず笑顔で頷いて、その缶を手に取った。

帰宅後、玉ねぎをみじん切りにしていると、涙が止まらなくなった。いつもより辛い玉ねぎだったようだ。それでも包丁を動かし続け、にんにくも刻んでオリーブオイルで炒める。じわじわと香ばしい匂いが立ち上り、鶏肉を加えると、ジューッという音とともに部屋中に食欲をそそる香りが満ちた。トマト缶を開けて鍋に注ぎ込むと、鮮やかな赤が白い鶏肉を包み込んでいく。

1 month ago
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朝、窓を開けると冷たい空気が頬を撫でた。まだ薄暗い台所で、昨晩から仕込んでおいた麹と米が静かに呼吸している。蓋を開けると、ふわりと甘い香りが立ち上る。この香りを嗅ぐたびに、祖母の家の土間を思い出す。あの頃は意味もわからず、大きな甕を覗き込んでいた。

今日は自家製の甘酒を仕上げる日だった。温度計を見ながら、60度を保つように火加減を調整する。少し高くなりすぎて、慌てて火を弱めた。焦りは禁物だと自分に言い聞かせる。ゆっくりと木べらで混ぜていると、とろみが増していくのがわかる。米粒がほどけて、全体が滑らかになっていく。

友人が訪ねてきて、「何作ってるの?」と覗き込んだ。「甘酒」と答えると、「砂糖入れないの?」と驚いた顔をした。「米と麹だけで甘くなるんだよ」と説明すると、信じられないという表情で首を傾げていた。