朝市で菜の花を見つけたとき、その鮮やかな緑色に思わず足を止めた。まだ蕾が固く、葉先に朝露が残っている。「今朝採ったばかりだよ」と農家のおばさんが笑顔で声をかけてくれた。春の訪れを告げる野菜は、見ているだけで心が軽くなる。
帰宅後、すぐに下処理を始めた。沸騰したお湯に塩をひとつまみ入れ、茎の部分から先に湯に入れる。ここで少し失敗した。いつもより30秒ほど長く茹でてしまい、菜の花の鮮やかな緑が少しくすんでしまった。氷水に取ってすぐに冷やしたものの、あの瑞々しさが若干失われた気がする。茹で時間は本当に大切だと、改めて実感した。
水気を絞ると、菜の花特有のほろ苦い香りが立ち上る。この香りを嗅ぐと、いつも祖母の台所を思い出す。祖母は春になると必ず菜の花のおひたしを作ってくれた。「苦みが春を運んでくるんだよ」と言いながら、醤油と削り節をかけた小鉢を出してくれたものだ。
今日は辛子醤油で和えることにした。練り辛子を少量の水で溶き、醤油と合わせる。菜の花を加えて優しく混ぜると、辛子の刺激的な香りと菜の花の苦みが絡み合う。
一口食べると、まず口の中に広がるのは菜の花のほろ苦さ。それから辛子のツンとした刺激が鼻に抜けていく。茎のシャキッとした食感と、蕾のほんのりとした甘みが重なり合う。少し茹ですぎたことが悔やまれるけれど、それでも春の味は十分に感じられた。
もう少し歯応えがあれば完璧だったのに、と思いながらも、この苦みこそが冬の終わりと春の始まりを教えてくれる。季節の変わり目を舌で感じられるのは、なんと贅沢なことだろう。
明日はもう一度、菜の花を買いに行こう。今度は茹で時間を正確に計って、あの鮮やかな緑色を残したい。失敗から学ぶことも、料理の楽しみのひとつだと思えば、今日の少しくすんだ菜の花も愛おしく感じられる。
食卓に春を迎える喜びは、何年経っても色褪せない。祖母が教えてくれた「苦みが春を運んでくる」という言葉の意味が、年を重ねるごとに深く理解できるようになった気がする。
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