朝、台所に立つと窓から差し込む光が柔らかかった。今日は春野菜の味噌汁を作ろうと決めた。新玉ねぎと菜の花、それから豆腐。シンプルだけれど、この時期にしか味わえない組み合わせだ。
新玉ねぎを切ると、いつもの辛味ではなく、ほんのり甘い香りが立ち上がる。包丁を入れた瞬間のみずみずしい音が心地いい。薄くスライスしながら、祖母の台所を思い出した。祖母はいつも「玉ねぎは繊維に沿って切ると辛くなるのよ」と教えてくれた。今日は繊維を断つように切ってみる。少しだけ、実験のつもりで。
鍋に昆布出汁を温めて、玉ねぎを先に入れる。火が通ると、透明感が増して、甘みがじわりと広がる。菜の花は最後に加える。茹ですぎると色が抜けてしまうから、と自分に言い聞かせながら、タイミングを計る。でも、少し長く入れすぎてしまった。鮮やかな緑が少しくすんだけれど、味は変わらない。これも学びだと思うことにした。
味噌を溶き入れる瞬間が一番好きだ。白味噌と赤味噌を半々で。お玉の中で味噌がゆっくりと広がって、出汁と混ざり合う様子を見ていると、時間が止まったような気がする。
椀に注いで、一口すする。玉ねぎのとろりとした甘み、菜の花のほろ苦さ、豆腐の優しい舌触り。それぞれが主張しすぎず、でもちゃんとそこにいる。口の中で春が溶けていくような感覚。飲み終えた後、体の芯がじんわりと温かくなって、ああ、今日も一日頑張ろうと思えた。
祖母の味噌汁とは違うけれど、これも私の味になっていくのだろう。毎朝少しずつ、手を動かしながら覚えていく。そんな積み重ねが、いつか誰かの記憶に残る味になればいいな。
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