冬の朝、湯気の立ち上る一杯のお椀から、白味噌の柔らかな香りが部屋いっぱいに広がった。京都の老舗料亭で出会った、この冬限定の「かぶらと白味噌の椀物」は、私の心を一瞬で掴んだ一品だった。
まず目に飛び込んできたのは、真っ白なかぶらの美しい断面。薄く削がれた柚子の皮が、雪の上に舞い落ちた黄金の花びらのように浮かんでいる。器は漆黒の椀で、その対比が料理の繊細さを一層引き立てていた。
箸で持ち上げると、かぶらはトロリと柔らかく崩れそうになる。口に運ぶ前に、柚子の爽やかな香りと白味噌の優しい甘みが鼻をくすぐる。その香りだけで、もう幸せな気持ちになってしまう。
一口含むと、まず感じるのはかぶらのトロットロの食感。長時間かけて丁寧に炊かれたかぶらは、繊維の抵抗感が全くなく、舌の上でフワリと溶けていく。白味噌の出汁は、濃すぎず薄すぎず、絶妙なバランス。西京味噌特有のまろやかな甘みが、かぶらの優しい甘みと重なり合って、口の中で柔らかなハーモニーを奏でる。
そして、柚子。この一片が全体の味を引き締めている。白味噌のまったりとした甘みに、柚子の酸味と苦味がキリリとアクセントを加える。冬の寒さの中で育った柚子の力強い香りが、優しい椀物に深みを与えているのだ。
出汁の中には、細かく刻まれた三つ葉も浮かんでいた。シャキシャキとした歯応えが、全体の柔らかさに心地よい変化をもたらす。一口、また一口と進めるうちに、体の芯から温まっていくのを感じた。
この椀物の素晴らしさは、素材それぞれの持ち味を最大限に引き出しながら、全体として一つの完璧な調和を作り出しているところにある。かぶらの甘み、白味噌のコク、柚子の爽やかさ、三つ葉の清涼感。どれ一つ欠けても、この味わいは成立しない。
料理長の話では、このかぶらは京都の伝統野菜である聖護院かぶらを使用しているという。冬の寒さの中でじっくりと育ったかぶらは、甘みが強く、煮崩れしにくいのが特徴だそうだ。そして、白味噌は京都の老舗味噌蔵から直接仕入れたもの。柚子は京都北部の農家から届いた、香り高い無農薬のものを使っている。
私はこの椀物を味わいながら、京都の冬を感じていた。雪の積もった金閣寺、静かな竹林、冷たい空気の中を歩いた哲学の道。そんな風景が、一杯の椀物の中に凝縮されているような気がした。
食は、単なる栄養ではない。 それは、季節を感じ、土地を感じ、作り手の心を感じる、豊かな体験なのだ。この椀物は、まさにそれを教えてくれた。
食べ終わった後も、口の中には柚子の余韻が残り、心には温かな満足感が広がっていた。冬の京都で出会った、忘れられない一椀。また来年の冬、この味に会いに行きたいと思った。
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